「何でこんなにコストが上がっているのか?」

 鈴木は佐藤の言葉に驚きを隠せなかった。「じゃあ今までやってきたことはどうなるんですか?」
 佐藤は答える。「まあ,よくあることだから。そんなに心配することはないだろう。ただ,今回は通信機能強化で新機能が満載されている。でも市場に許容される価格アップは少額だから」

 佐藤は続ける。「しっかしあれだけ営業やマーケの連中が機能強化,競合対抗,とか言っているんだから,コストが上がるのも無理はないよ。要するに新機能は満載しろ,でも価格は抑えろ,っていういつもの話だよ。そもそも営業の連中は肌感覚がなさすぎる。競合対抗しか考えていないから…」

 鈴木は佐藤の愚痴を遮って聞く。「私が担当している躯体のコストも下げろっていうんですかね?」
 「明日,財務部から部品ごとの目標原価が出てくるから,それを待つしかないね。だけど,今のままでいいはずはないよ」

 次の日,パソコンの画面を眺めながら佐藤が鈴木に声をかける。
 「おい鈴木。お前の部品の目標コストだけど,現状見積コスト1200円に対して700円に抑えろって!」
 「えっ,700円ですか,ほとんど半額じゃないですか」
 「ちょっとデータ後で送っておくけど。これ見てみろよ。現製品のコスト650円に対して部品追加で+50円だって。つまり現製品コストに対して上がりすぎだってこと」
 「えっ…」
 鈴木は先日の購買部の田中とのやり取りを思い出した。田中は確か,この部品であれば在家工業が一番コストも安い,と言っていた。現製品のサプライヤーがどこかは分からないが全然安くなっていないじゃないか。

 「何でこんなにコストが上がっているのか?」