まず考える。「最悪のシナリオとして、経済崩壊したらどうするべきか?」。企画マンの習性その1である。先が不透明で打つ手が見あたらないとき、まずは最悪の想定シナリオを描く。「その結果として、もし小生の仕事がなくなると想定した場合の打開策を考えてみよう」。企画マンの習性その2、親身に打開策を出そうとするときはまず自分の身に置き換えて考えてみる。「この場合、仕事のあり方、経済のあり方そのものが変化していると思われるので、仕事を受ける立場ではなく一般消費者、一般生活者の立場でその変化を感じ取ってみる」。企画マンの習性その3、予測マーケティングだ。これが、新しい時代の予兆を掴み、それに合った新しいビジネスを考え出すためのベースとなる。

 説明しよう。この、生活者の価値観の変化を想定して新商品や新サービスのコンセプトを立案するというやり方こそ、最近注目されているマーケティング手法なのである。従来のマーケティングは商品の売れ行きや消費者の反応といったデータベースをもとに次なる市場を予測していた。一方の予測マーケティングは、生活者心理からその動向を予測するという点で、従来手法とはまるで違う。

 「経済は感情で動く」とは、行動経済学者マッテオモッテルリーニの言葉だ。生活者の社会的感情がひき起こす新しい行動を観察すれば経済動向は予測できるという理論で、本来はマーケットの多様化に対応する手法として注目を浴びた。それが、先が見えない時代にいちはやく新価値観を発見する手法にまで進化してきた。一般生活者の心理や生き方に関する情報に基づき、商品開発を進めようというわけだ。

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 それにしても荒川の土手はいい。思考するにはピッタリの場所だ。広々としていてのどかで、都会の喧噪を忘れてプータローになった気持ちで明日を考えることができる。寅さんがよくここを歩いていたのもうなずける。

 「でも寅さんって雰囲気はプータローだけど、誰にも頼らず自分の食い扶持はちゃんと自分で稼いでいたんだよな。全国を回って歯磨きを売ったりして。でも、彼がこんなご時世に生きていたら、何をやっているだろう」。

 気分はプータローだけど、よくわからないうちに食い扶持くらいは何となく稼いでいる。それって、オレのことじゃないか。よーし、寅さんになったつもりで真剣に考えてみよう。そもそも今回の不況は、「仕事ない、金ない、あてもない」の3拍子がそろったものである。それでも何とか食べていくために自分ができることは何か。そう、自給自足である。誰にも頼らず生きるためには、自分で食うものは自分で作ればよい。うん、これだ。