どうもいけませんな、不景気で。

 いろいろアイデアを思いつくもんだから、とりあえず試作機を作ってもらおうと町工場に「いっしょに開発してみないか」とメールしまくっているのだが「それどろこじゃねぇんだよ、ボケェ」みたいな返事がここのところ続いている。いや、実際にはもうちょっと礼儀をわきまえた文面なのだが、行間を読めば、要するに「ボケェ」なのである。とにもかくにも、去年の暮れあたりからか、みなものすごくノリが悪い。

 100年に1度の不景気だかなんだか知らないが、これでは何も前に進まない。で、とりあえず友人に「なにシケ込んでるんだよぉ、根性ねーなぁ」とメールしたら「おまえ、ぜんぜん分かってないねぇ、ちょっと工場に来い」とドスの利いた声で電話があり、荒川区にある金型工場に行くことになった。

 行ってみて、見て、これはまずいと思った。下町の工場からものを作る機械の音が消えてしまっているのだ。とてもじゃないが前回までのように、「電動スケボーで海行こう!」というコンセプトを読者参加で練りに練って、あわよくば製品化までやってみよう、などと能天気に言っている雰囲気ではないのだ。

 人気のない工場で知人の経営者Hと二人でコンビニ弁当を食べた。「なにを作るかじゃなくてなにを捨てるかなんだよね、自力で新しいものを創る余力が今はねぇ」としょんぼりHが言う。そういわれると火が付くのが企画マンの人情である。「そうとも言えんだろ、昔グニャグニャになった試験管(工場の失敗作)を東急ハンズで『一輪挿し花瓶』なんて言って売ったことがあっただろ。あれ、すごい売れたじゃないか。新しい視点で見直せば何か売りにつなげるチャンスがあるのよ。終わりは始まりの予兆という文句だってあるじゃないか。たしかに浮いた時代は終わった。けどそれは、第2次産業革命の始まりなんだぜ」などと唾を飛ばして吠えてはみた。けれどもHは、「おめぇは昔からおめでてぇよなぁ」と力なく言って薄笑いを浮かべるばかりである。

 そうかぁ・・・。友のただならぬ様子を目の当たりにして、さすがに真剣にならざるを得なくなった。で、どうすればいいのだろうか。寅さんのように荒川の土手を歩きながら、考えにふけってみた。