縦割り組織の解体を

 では,今の日本の大企業の中でイノベーションを阻害しているものは具体的にはどのようなものだろうか。水野氏は講演の中で,一例として,開発,営業,製造といった縦割りの組織の弊害を挙げた。販売部門は開発部門が持ち込んだ商品になるべくケチをつけて,こんな商品でも販売の力で売れたと見せる。製造部門もそんな設計でそのコストでできるわけがないと文句をつける,という具合に部門間でお互いにケチを付け合いながら仕事をしているのが日本の大企業の現状である。

 そこで,水野氏は,各部門を「Neue Kombinationen」して,縦割り組織から,横の組織に変え,新しいコンセプトの製品やビジネスモデルを考えるミッションを与えることを提唱する。「営業はこんなものなら売れると言うコンセプトを出さざるを得ない,出せないのなら,研究開発部門のものを受けざるをえない,受け入れられないのなら議論をせざるを得ない,製造部門もものづくりができないのならできない理由を言わなくてはいけない,できるのならやらざるをえない。その結果として,新しいものが出てくる。それでも何も出てこないなら,もう会社におってもらってもしょうがないですなぁ。日本はこの大不況の中でこれをやったらいいじゃないですか」。

 水野氏は実際にこうした「Neue Kombinationen」を実践している企業として,ある米国企業や日本でもゲームソフトメーカーなどのケースを紹介し,「そもそも日本人にそうした能力がないというわけではない」と語る。

設計情報は流れているか

 筆者は,『日経ものづくり』誌の2009年3月号特集「今だからできる!カイゼン事例50」のチームに参加して,不況下でカイゼンに取り組む現場をいくつか取材させていただいた。皆さんが共通に語っておられたのは,不況に打ち勝つような抜本的なカイゼンをするために重要なことは全体最適を目指すことで,それには部門間の連携や調整が鍵を握る,ということである。確かに,部門間で「Neue Kombinationen」を起こすことは日本の製造業の大きな課題である。

 それは,ものづくりの基本が,開発・設計部門→製造部門→販売部門と設計情報が淀みなく流れることである,という観点からも説明できるだろう。部門間が切れていては,設計情報は流れないからだ。その点で,特に印象的だったのが,ハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)前社長(2009年1月より最高顧問)の奥井俊史氏の話である。同氏には,「私の知る限り,日本の大企業で,『製』(メーカー)から『販』(販売店)に設計情報がきちんと流れているところはない。あったら教えてください,ぜひ勉強にいきたいので」と逆に聞かれてしまった。