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“金看板”に偽りあり

藤野 清=藤野技術コンサルタント
2009/02/26 17:00
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 三菱金属(現三菱マテリアル)に引き続き,我々は銅用の押し出しプレス機の受注を狙って,いろんなところに行っては顧客を探していた。すると,当時,東京都板橋区徳丸という地に工場を設けていた大木伸銅工業(本社東京都)が「増設を計画しているらしい」という噂を聞きつけた。早速,清水和茂君と彦由耕二君,谷口博美君の3人が同社を訪問した。

 そのころの銅の押し出しプレス機は,押し出された軟らかい銅棒を作業員が引っ張っていた。作業員が銅棒の先を「やっとこ」で挟み,押し出し速度に合わせて引っ張りながら前方に歩いていくのだ。2本の銅棒を押し出す場合は,2人の作業員がそれぞれの銅棒を引っ張っていく。押し出されたばかりの熱間の銅棒は熱いだけでなく,まるで生うどんのように柔らかくて,強く引っ張るとすぐに切れてしまうため機械化が難しい。

 この事態に大木秀夫社長は困っていた。工場を増設した暁にはもっと人手が必要だ。ところが,押し出された銅棒を引っ張る現場は暑すぎて作業員から嫌われてしまい,人がなかなか集まらなかったからだ。そこで,大木社長は我々に「新しい押し出しプレス機の注文が欲しければ,巻き取り機の良いものを造ってくれ」と言った。

 この難題を聞いて,3人はすごすごと退散した。しかし,その帰り道に設計を担当する谷口君は思い直してもう一度引き返し,社長に面会を申し出た。そして,「巻き取り機ができたら,本当に押し出しプレス機を買ってくれますか?」と念押しすると,大木社長は「よかろう」と約束してくれた。

 それからは試行錯誤で,見たことのない油圧モータ駆動の巻き取り機を設計し,あちこちを調べて,これならよいだろうという製品を大木伸銅工業に納入した。早速使ってもらうと,うまく動く。従来とは違って,作業員が押し出された銅棒を引っ張る必要がないのだ。これで大木社長は安心して工場の増設に踏み切った。場所は埼玉県新座市だ。この巻き取り機を付けたのが,2500tの複動式押し出しプレス機である。昭和40年(1965年)のことだ。

 その押し出しプレス機が出来たころ,大木伸銅工業の新座新工場に行ってみると,そこには大きな梱包が置かれていた。何の梱包かと聞いてみると,アルミサッシを造るために米ボールドイン・ハミルトン(BLH)社製の1650tのアルミ用押し出しプレス機を購入したが,まだ据え付けていないとのこと。そういうことなら,我々宇部興産がその据え付けと付属の後面設備を造るお手伝いをしましょうと申し出ると,あっさりとこの仕事ももらえた。すぐに我々はBLH社の取り扱い説明書を借り,懸命に勉強を開始した。

 もちろん,我々の狙いは単に本体の据え付け作業を請け負うことではない。そのころ,日本に入ってくる輸入機の大部分はBLH社製であり,その構造をつぶさに調べるチャンスだと考えたのだ。BLH社は,油圧プレス機に関して我々の「先生」であった米レークエリー社をつぶしたメーカーであり,かつて我々が技術提携を申し込んだ時には「自分たちで輸出した方が儲かる」と断られた因縁もある,最大のライバルだった。

 我々はBLH社製の機械の据え付け作業を行っている間,徹底的にその構造をスケッチし,かつ調査した。さすがにレークエリー社をつぶしただけのことはある。性能にもコストにも配慮が行き渡っていた。我々はこの調査結果を参考にし,自分たちの造るアルミ用押し出しプレス機の性能や品質を洗練させていった。

 我々のような小さな企業や組織は,大企業に比べてお金も人も限られている。だが,知恵を使えば,いくらでもそのハンデは乗り越えられるということだ。技術者にとって製造現場は宝の山である。技術者としての実力を高め,製品の競争力を高めるアイデアもそこに転がっているのだ。いずれにせよ,我々は大木伸銅工業の製造現場で,据え付け作業の代金をいただきつつ,ライバルメーカーの機械の情報も得ることができた。まさに一石二鳥というわけだ。

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