ポンドが大暴落した理由

 英国ケンブリッジ大学(写真1)での生活も、この3月で1年になる。その間に、米国発の金融危機が世界に拡散し、金融業に偏りすぎていた英国はその余波をまともに受けて突然の不況に見舞われた。2007年には3%以下だった失業率は、いまや10%に達すると見積もられている。ケンブリッジですら、若いホームレスが突然増えた。


写真1 ケンブリッジ大学の雪景色。カテドラルから右はキングス・コレッジ、左はクレア・コレッジ。ケム川が流れる。

 そればかりではない。2007年12月に250円だった1ポンドが、2009年2月には130円台と約半分になった。おかげで英国の物価は、ようやく日本と同程度になった。見方を変えれば、英国市民は数年ものあいだ異常なほど高い価格で日用品を買わされていて、ポンド高の利益をほとんど享受してこなかったことになる。

 G7先進国の中で、なぜ英国だけが通貨の異常な暴落をこうむったのか。よくある議論は、「ポンドは過去数年のあいだ過大評価されており、このカタストロフによって購買力平価にむしろ近づいた」というものだ。しかし為替レートで換算すると、現在の英国の平均賃金(OECD値)は日本の70%以下となる。ポンドが低値安定にあることを考えると、やはり実際の英国の経済力を反映したものと考えざるを得ない。そこで「世界市場は、英国が国際競争力を失っていると評価したのではないか」という仮説に光があたる。

 サッチャー改革の結果、日本の長引く不況を尻目に、英国は16年ものあいだ好景気を享受してきた。GDP成長率は1992年以後、一貫して2%から6%のあいだを堅持しており、それを支えてきたのはサービス業、とりわけ金融業であった。ところが、その一方でハイテク技術企業は軽んじられ、技術企業のなかで鍛えられるべきイノベーション力が失われてしまったのではないか、ということだ。