少子化が日本の技術や技術者に及ぼす影響を本コラムの主題の一つにしている。2007年問題とも言われたが,熟練者の退職による技能・技術の消失や安全性などの低下の問題である。もっとも,少子化は今に始まった話ではない。だから,影響は既に深刻化している。叔父さんがいなくなった。

 私の両親は共に5人兄弟の次男と次女である。だから,多数の伯父,伯母,叔父,叔母がいらっしゃる。既に他界された方もいるが,成長期に大変お世話になった。このコラムを借りて御礼申し上げる。

 私事はともかく,昔は長子相続の慣習が根強かった。親から見れば長男は手元において,堅い職業に就かせることが主流であった。田を継ぐ者,公務員になる者である。もちろん,立身出世,末は博士か大臣かと親の期待を一身に背負った長男も多かったはずである。

 長男以外はスペアである。溺愛する末子を除けば後は野となれ山となれ。かわいさに差は無くても,実質長男以外は面倒を見切れない。親に迷惑をかけずに生きていければよい。おおらかなものである。機関車にあこがれて鉄道屋になるものもいれば,電話屋や新聞屋などの新興の職業に就くものもある。流されて道を踏み外す者がいる。そこから,更正して貿易商で成り上がる者もいる。

 そんな叔父,叔母が盆,暮れに集まる。中には外車で来る怪しい叔父もいれば,都会の流行を振りまく叔母もいる。本家の子供も叔父・叔母の子供も,そこはワンダーワールド。人生を学ぶ場である。堅い職業以外に,好きな職業,怪しい職業の見本市。人生の学びの場であった。

 今は,子供は一人か二人。堅い職業に就かせたい長子か溺愛の末子ばかり。周りに多彩な職業見本がいなくなった。それだけでなく,親子の一対一の関係。堅い職業を進める親の話は面白くない。その話を受け入れる子供はがちがちの安定志向。反発した子供も,親の力には適わない。不満ながら大学に通うか,それもできずに親に甘やかされるか。

 昔は親の話は聞かなくても,叔父さん叔母さんの話は聞いた。良く言われる「斜めの関係」である。親に比べれば,叔父さんとは利害関係が薄い。叔父さんの話は素直に心に届く。親の話は保身に聞こえる。

 技術者の子供が技術者にならなくなってきた。親が勧めないこともあるだろう。親が勧めても子供は従わない。利害抜きで,技術屋の面白さを語る鉄道屋も電話屋も周りにいない。もちろん,工学部の先生は高校に勧誘に走る。出前授業にも取り組む。しかし,そこに生徒さんは大学の保身を微妙に感じ取る。

 事は大学だけではない。職場も同じである。リストラが進んだ職場は上司と部下の一対一の関係だけ。叔父さんがいない。えらい,伯父さんはいらない。利害関係抜きに,自分の目線で離してくれる叔父さんが欲しい。上司の注意は保身。叔父さんの注意には愛を感じる。

 少子化で肉親の叔父さん,叔母さんがいない。いても,遠方にいて会わない。既に,叔父さん・叔母さん関係は壊滅している。システム工学研究者としては,社会で,職場で,家庭で,叔父さん,叔母さんの役割を意識して果たす仕組みを用意しなければいけない。まずは,呼びかけから始めよう。皆さんの叔父さん叔母さん。皆さんの子供の叔父さん,叔母さん。皆さんの部下の叔父さん,叔母さんはどこですか?