当時、東洋の某国は命の次に大切な道路のためと称して「これからも五十数兆円の資金を道路に投入する」と言っていたのは記憶に新しい。この二つの国の政策を見比べれば、どちらが眼力があるのか、どちらが21世紀的な発想で国の将来を考えたものなのかは、一目瞭然だ。

 そのフランスのパリのことである。2007年のなかばに2万台の貸自転車が登場した。バリブ(Vlib’:Vlo(自転車)とLibert(自由)を組み合わせた造語)と呼ばれる、シャレたデザインの貸自転車である。パリ市内の至るところに貸出スタンドが置かれ、空いている自転車があれば登録してすぐに乗れる。

 すでに20万人を超える市民(観光客ももちろん使える)が登録済みで、最初の6カ月間に自転車に乗った人がなんと1100万人を超えたそうである。筆者も昨年9月、わざわざパリに出かけこの自転車に乗ってきた。聞くところによると、自転車が増えた結果、パリ市民に日常の会話が復活したそうである。自動車では知人とすれ違っても挨拶すらできないが、自転車なら、ということなのだろうか。

 この貸自転車は、フランス人が得意とする「遊び」の発想ではない。パリは温暖化対策の一環として2001~2020年を対象に「パリ・モビリテイ計画」を打ち立て、公共交通機関へのシフト、自動車交通の大幅削減、自転車に乗ろう、歩こう作戦などを展開中なのである。この政策の一環か、昨年、パリに市電が75年ぶりに復活したりもした。

女王陛下の決断

 そのフランスの対岸でも、大きな動きがある。2008年11月26日は、ひょっとしたら気候変動政策の歴史の中で記念すべき日として記憶されることになるかもしれない。この日、懸案の気候変動法にエリザベス女王が署名し、世界で初めて「法的義務を伴うCO2の国家削減目標」が誕生したからである。同法によれば、2050年までに1990年比80%削減という目をむくような高い目標である。