簡単だけど、すごく難しいこと

 ちなみにWikipediaによれば、マスゴミとは「マスメディアを批判的に扱う際に用いられる蔑称」で、社会の公器として報道することを建前としながらも、裏を取らずに官庁や企業・団体の発表を鵜呑みにして報道すること、排他的な記者クラブを構成していること、偏った政治思想による偏向報道、近年目立つ捏造報道などが批判のベースになっているようだ。強いバックを持たない一般人や有名人に対しては容赦ないが、政治家・官僚やスポンサー、宗教団体、広告代理店、大手事務所所属の芸能人、スポーツ選手・団体(チーム)の不祥事などは知りながら故意に報道しないことが多い、といった指摘もある。

 「面白くない」ということも問題だろうけど、それより、権力や金銭、固有の思想などに歪められた情報しか報道せず「本当のことを言わない」という体質こそが、批判の対象となっているようだ。加えれば、ウケ狙いの過剰演出も偏向や捏造の予備軍で、少なくとも「本当のこと」ではない。

 この、「本当のことを言う」ということは、簡単そうに思えるけど、実はとても難しい。先日も「難しいけど何よりそれが重要なのだ」という話をルーシー・クラフトさんからうかがった。彼女は、日本を拠点に活動するベテランの米国人ジャーナリストである。

 ただし、彼女が指摘するのはマスコミの特殊な事情に関してではない。そもそも、企業でもお役所でも政府でも、あらゆる組織がダメになるのは「本当のことを言う」という1点が守られていないからで、実はそれこそが組織にとってもっとも重要なことなのだという。

 例えば、従業員が自己の業績をアピールするため、成果を誇張して報告したり、他人の成果を横取りしたりする。よく聞くような話だ。しかし、こうした虚偽の報告が真に受けられてその従業員が出世でもしようものなら、職場の雰囲気は最悪になる。さらには「模倣犯」も出現するだろう。それがエスカレートすれば、過失や事故は隠蔽して報告しないなどという風土がしっかり職場に根付いてしまう。そこから、企業にとって致命的事態を招きかねない事件が頻発するようになるだろう。

だって怖いもん

 もちろん、問題を起すのは従業員だけではない。むしろ深刻なのは、リーダーが犯す誤りである。リーダーも人間だから、しばしばそれは起こる。けれど、健全な組織でそれが破綻にまで至らないのは、リーダーの周囲にフォロワーたちがいるからだ。会社でいえば、経営陣と従業員、上司と部下である。組織の鉄則は、従業員たち部下たちが正直にものを言う、つまりリーダーが間違ったときは「間違ってますよ」と本当のことが言えることなのだとルーシーはいう。