趣旨
日本メーカーに不況の波が押し寄せている。生産ラインの休止,新規工場の凍結,設備投資の削減,人件費の大幅カット…。多くの技術者が下を向き,会社と自分の将来を案じている。しかし,何か大切なことを忘れていないだろうか。そう,「新しい事業への挑戦」だ。口で言うほど生易しいことではない。だが,いつまでも自社の既存の事業に頼るだけでは,成長に限界がくるであろうことは,誰もが心の中で感じていることではないか。  かつて,日本メーカーはそれまで手掛けたことのない新規事業を歯を食いしばって立ち上げ,世界市場に挑んでいった。そのガッツや危機感が現在の技術者には足りないのではないか──。そう問い掛ける元技術者がいる。宇部興産の元専務の藤野清氏だ。地方の一企業で旧態依然とした炭坑機械からの脱皮を図り,油圧プレス機やダイカストマシン,射出成形機など新しい製品を手掛け,高級車に採用されたアルミホイールを生産するまでに導いた。その苦闘の軌跡がここにある。
藤野 清(ふじの・きよし)
藤野技術コンサルタント
1931年,宇部市に生まれる。1944年,広島陸軍幼年学校入校。1945年6月,当時の阿南陸相の命令で疎開し,広島での原爆死を免れる。これを「お前たちは敗戦後の日本の復興に努力せよ」との遺言と受け止めている。1953年,九州大学工学部機械工学科卒。宇部興産に入社し,機械部門に配属される。1961年,新設の油圧プレス設計係長,1968年,設計部長,1973年,取締役に就任。1987年,専務取締役を退任し,ユーモールド社長に就任。1989年,同社社長を退任し,会長に就任。1991年,社長復帰。1994年,社長退任。1998年,相談役を退任し,現在に至る。