かように、「生」や「手造り」「天然」といった言葉の定義はあいまいで、強弁すれば何でも天然になり得る。このことが大きなポイントで、だからこそ「天然とうたえば顧客が喜び販売は伸びる」となれば、何にでも「天然」を冠してしまい、市場は天然の花盛りといった怪現象が出現する。どんな業種もメーカーも、買い替えも出張も何でもエコだと主張するCMが跋扈する状況も、まあ似たような構造に起因するものかと思うけど。

 そんなことで、私の頭の中には天然疑惑が渦巻き、疑わしいものを見るたびにイラっとするという、何とも精神安定上よくない状況が生まれてしまうわけだ。けどそもそも、必死に言い張るほど天然っていいものなのだろうか。そこも解せない。たとえば、先に挙げた天然酵母に関するウェブサイトには、次のような記述がある。

 パン屋さんとかが自家培養して増やした酵母種などには、パン酵母だけでなく、乳酸菌などの他の細菌が混在している例が多い。この結果として、純粋にパン酵母だけを培養したものとは違った独特の風味をもったパンができる可能性はある。けれども逆に、風味を悪くする雑菌が混じっているかもしれない。

 こう解説した上で、「天然という語句は、信仰や幻想とも言えるほどに人々に意味もなく好印象を与えるため怪しい健康食品の宣伝にもよく用いられる」とし、「天然」「自然」を標榜する商品は高価格にもかかわらずムダな不純物が多く残されている場合が多く、その不純物が思わぬ害をもたらす危険性を指摘する。だから、「天然」「自然」だから安全なのではなく、「天然」「自然」だからこそ慎重に不純物を除去しなければならないと、結論付けている。

 似たような話を、医薬の専門家である友人から聞いたことがある。日本人は、漢方薬や生薬を「天然、自然のものだから」と言って非常に喜ぶが、実はそれらはかなりこわいものなのだと。もちろん理由は、有効でない成分の存在である。一般的な医薬品は、害を及ぼす成分を排除した、高純度な有効物質を原料に調製されている。ところが自然のままの成分をそのまま使う漢方薬には、有効成分も含まれているだろうが、そうではない、多量に摂取すれば健康被害を引き起こす物質も含まれている場合がある。だから用法、服用量などを厳密に守る必要があるのだが「自然のものだから体にいい」との意識が、大量摂取や繁用につながり、思わぬ被害を被ってしまう例が意外に多いのだとか。