図1 指導を仰ぎながら,専用の靴を履く
図1 指導を仰ぎながら,専用の靴を履く
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図2 両手でシートを引き上げる
図2 両手でシートを引き上げる
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図3 シートを引き上げて,装着。動作準備は完了する。自転車のサドルとは違う感触で,心なしか気合が入る。接触面が異なるためだ。
図3 シートを引き上げて,装着。動作準備は完了する。自転車のサドルとは違う感触で,心なしか気合が入る。接触面が異なるためだ。
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図4 最初の一歩を踏み出す
図4 最初の一歩を踏み出す
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図5 しゃがんでみる
図5 しゃがんでみる
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図6 階段を上る。奥には上り坂が見える。
図6 階段を上る。奥には上り坂が見える。
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図7 試作機と,体験コースの階段と坂である。
図7 試作機と,体験コースの階段と坂である。
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 「根津さーん,根津さんはいらっしゃいますかぁー」
私を呼ぶ声が聞こえる。ついに私の順番だ。
ここはホンダが新たに開発した歩行アシスト機の記者発表会の会場。取材を切り上げ,会場後方に向かう。記者発表会に参加した人に向けた,アシスト機を試す体験会が催されているからだ(Tech-On!関連記事)。

 記者発表会にはいろいろと参加しているが,今回のように新製品を試す場は少ない。貴重な機会なので,迷うことなく体験会に参加した。それにSFアニメなどに登場する「パワードスーツ」に関心がある。ちなみに最近のお気に入りは,アニメ「マクロスF(フロンティア)」に登場する「EX-ギア」というものだ*(ご興味のある方はこちら)。

*「マクロスF(フロンティア)」はアニメシリーズ「マクロス」の誕生から25周年を記念して制作されたテレビ・アニメ。従来のマクロスシリーズの「可変戦闘機・バルキリー」のアクションと歌,三角関係の恋愛といった要素を踏襲している。今回のヒロインは「ランカー・リー」と「シェリル・ノーム」の歌姫である。この二人が作品内で歌う曲もヒットした。シェリルの歌はMay’nが,ランカは中島愛が担当する。菅野よう子などが手がけるサウンドトラックもヒットし,先日武道館でマクロスFのライブが開催されるなど話題を集めている。

 話を本題に戻そう。試作品は主にシートとフレーム,専用の靴で構成する。利用時は靴を履き,シートを両手で持ち上げて装着すれば,動作準備は完了する。

 そこで説明員の指導に従い,さっそくいすに座り,革靴を脱ぎ,専用靴を履く(図1)。続いて右手でシート前方についている取っ手をもち,左手をお尻側から両足の間を通してシート後方の取っ手を持つ(図2)。あとは自分の股間部にまでシートを引き上げるだけだ。

思わずグッとくる

 「うっ!!!」

 予想外の衝撃に軽いショックを受ける。いや,実際には大したことはないのだが,予想していなかったのでびっくりしたのだ。「意外ときますねー」と思わず言うと,前方にいる説明員の方がニヤリッ,と笑い返す。もはや男同士,言葉はいらない。私はまわしを締めたことはないが,まわしを締めるとこのような感覚に襲われるのではないかと思った。何かに大切な部分をつかまれた感覚だ(図3)。

 おおげさに書いているが,この感覚には時間が経つとある程度慣れてしまう(場所が場所だけに個人差は大いにあると思いますが…)。違和感はそれほどない。この締め付け感よりも,むしろある程度引き上げると,自然に装着できることに少し感動してしまった。

 一歩踏み出し,しゃがんだりした後,すぐに平らな部分を歩き回る(図4,5)。股間周辺以外の内股部分も若干の違和感を覚えた。装着するとフレーム部が内股部分に位置するためだ。だが,こちらもやはりすぐに慣れる。しばらく歩き続ける。しかし,平地ではこのアシスト機の効果はわかりにくい。

 今回の歩行アシストは,階段の昇降や坂道の上り下りなど,脚に負担のかかる場所でこそ真価を発揮する。そこで体験コースには短い階段と坂道が設けてある。説明員が勧めるままに,体験コースの隅にある台を上り下りしたあと,階段を上る(図6)。階段を上ると,わすかに脚を引き上げられる感覚に,下るときは脚を軽く支えられる感覚を覚えた。しかし,「階段を上ったり下ったりするのが非常に楽」という感じではなかった。正直言って,効果があまり良く分からなかった。個人差があるのだろう。私は,最近メタボってきたとはいえ,数年前は「踏み台昇降」などでダイエットに努め,体重を30kg以上減らした身。階段の上り下りには自信がある。また,効果が実感できないのは,階段の段数が少ないからかも知れない。長い階段を上り下りすれば,アシスト効果をはっきりと感じることができそうだ。

寂しげな音とともに

続いて登り坂に向かう(図7)。

「おー,これは楽ですねー」
思わず叫んでしまう。坂道を上っている感覚がまったくない。さくさく進み,(距離が短いとはいえ)すぐに頂上に着く。先ほどの階段の昇降ではその効果をあまり実感できなかったが,坂道は違った。その効果をすぐに感じることができた。下りも楽だ。私の感想に説明員の方はうれしそうな表情で,「そうですか,良かったです」と応えてくれる。

 が,事件はその直後に起きた。坂道を下ったところで,「ふゅーん」という寂しげな音とともに,急に股間周辺への締め付けがゆるくなる。アシスト機の電源が切れ,シートが下方へ離れたのだ。あまり動じず,すぐに説明員がそばによる。
「脱がなくて大丈夫ですか?」
とたずねると
「大丈夫です。すぐに起動し直します。」
と冷静にフレームのひざ部分にあるスイッチを押す。その後指示に従い,両手でシートを引き上げる。すると先ほどと同じく,簡単に装着できた。
再び平地を歩きながら,
「私が無理な動かし方をしたのでしょうか?」
とたずねる。
試作品は何でもできるわけではない。可能な動作には限りがある。例えば試作品を装着したまま,飛び跳ねたり,走ったりすることはできない。利用者の体重すべてをあずけて,シートに座り込むような使い方もできない。こうした使い方を試したわけではないが,坂を下るとき,かなりアシスト機に体重をかけた感覚を持っていた。だから,限界といわれた10kg以上の負担がアシスト機にかかったものだと考え,たずねたのだ。

「いや違うと思います。まあ,あくまで試作品ですからね。原因不明で動かなくなることもありますよ」
と,答えてくれた直後,また寂しげな音と共に締め付けが弱まる。

 説明員の方が再び,アシスト機を起動しようとしてくれたが,「試作品を壊すと悪いので」,と丁重にお断りする。ちょうど予定時間の終わりも来たことだし。

 アシスト機を外したあと,同じコースを歩き回る。装着していないと,先ほどの坂道の上り下りがきつい。改めてアシスト機の効果を実感した。

 ちなみに,私の体験した姿の写真を見た先輩記者が,開口一番「これは厳しそうだな~」。
やっぱり見ただけでわかりますよね…。

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