図8 FPDを大量導入したNokia社のシカゴのショップ
図8 FPDを大量導入したNokia社のシカゴのショップ (画像のクリックで拡大)

ショッピング・エンターテインメント

 以上は主に売る側にとってのメリットが大きいイノベーションの事例でしたが,買い物客にとってもより楽しいショッピング体験をデジタル技術によって提供しようとする動きが出てきています。

 例えば米国シカゴにあるフィンランドNokia社のショップでは,インテリアの一部としてフラットパネル・ディスプレイを大量に導入していました。専用に制作された美しい映像コンテンツを流すことで,特別な空間を演出しているのです(図8)。こうしたディスプレイ技術により,見たことのないような空間体験を顧客に提供することができるようになってきています。

図9 一定額以上の買い物をした人を対象に,代金が無料になるキャンペーンを実施
図9 一定額以上の買い物をした人を対象に,代金が無料になるキャンペーンを実施 (画像のクリックで拡大)

 また,欧米では最近,SMS(ショート・メッセージ)やBluetoothなどの通信規格を用いて,デジタル・サイネージとモバイル端末とを連携させたマーケティング手法が増加しています。インドのスーパーマーケットでも,SMSで参加できる懸賞やクイズなどのコンテンツを頻繁に配信して,買い物客の参加を促しています(図9)。こうした活動は競合店との差異化や顧客のロイヤリティ向上に寄与すると考えられています。

 このほかにも,幼児用のクルマの形をしたショッピング・カートを無料で貸し出し,そのカートに付いた小型ディスプレイに広告を表示させることで広告収入を得るビジネスを展開する会社などが存在します。このショッピング・カートには子ども用と親用の二つのディスプレイが搭載されており,子ども用にはアニメなどのコンテンツを表示させています。ディスプレイを付けた効果によって買い物客の滞在時間が伸びるとともに,幼児を持つ親だけに的確な広告を見せることができる“ターゲティング可能な広告メディア”としても機能しています。

インターネットのイノベーションがリアルな世界にも波及する段階

 このように,ディスプレイ技術と情報技術が結びつくことで,リアルな店舗でのショッピング体験も劇的に変わろうとしています。このような変化は,ショッピングだけにはとどまりません。次回のコラムでは,行政サービスや病院など,家の外のあらゆる空間に広まりつつあるアンビエント・ディスプレイの話題を取り上げたいと思います。

《編集から》ご愛読いただきました本コラムですが,著者の都合により,一旦お休みさせていただきます。