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 本間は、自身の作品以外の工房作品では下地の7割ぐらいに中国産の漆を使い、中塗り、上塗りには茨城・奥久慈の漆を使っている。ただし、日本で作られている漆器のほとんどは、中国産漆を使って作られており、一部の上等品の多くが下地から中塗りまでのほとんどが中国産、最後の上塗りは日本産を3割加えた漆でという場合が多いようである。

 理由はいくつかある。まず日本産は非常に高価であるが、作業性では延びも良く、香りも良い。乾いた塗膜は透明度も硬度も高い。だから誰しも仕上げには日本産漆を使いたい。

荻房で製作されている漆椀のいろいろ。左端の兎文が入った椀の裏面には、同じ兎の後姿が描かれている。
漆絵盆。江戸初期のもの。兎と月が素朴な筆致で描かれている。

「だが日本産漆はじゃじゃ馬のようで、単体で使うのはとても難しい」のだと本間は言う。だから、性質の異なる数種類の日本産漆をブレンドして、用途に合う漆を調整しなければならない。あとは価格との折り合いということになるだろう。価格に敏感な流通、消費者に配慮すれば、どうしても日本産漆を使うことを躊躇してしまう。

 こうした状況を表面的にとらえれば、「下地も中国製から高価な日本産にすればさらにぐっとよくなる」と考えがちだ。しかし、そうは一概に言えないと本間は言う。下地には大量の漆を使うが、隠れて見えないところなので漆の透明度などはさほど問われない。しかも、採取される漆の大部分を占める盛辺漆と遅辺漆は中塗り上塗りには最適だが、下地用には向いていないのだと言う。

 日本産でも初辺の生漆は下地に使えるが、果たしてそうしていいのかという疑問が残る。下地には、中塗り・上塗りより多くの漆を使うが、採れる初辺の量は、中塗りや上塗りに向く盛辺、遅辺に比べて圧倒的に少ないからである。漆が工業製品でない以上、この比率を変えることはできない。だから本間は「目的に最も適した漆を使いたい」のだと言う。日本産のよさを理解し使いこなすことと日本産に固執することとは違う、ということなのかもしれない。