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 磁器はchina。そして漆器は英語でjapanと呼ばれた時代があった。ヨーロッパとの本格的な貿易が始まった安土桃山時代から江戸時代のはじめにかけて、早くも海を渡った日本製の漆器が、かの地においていかに珍重されたかを示す一つの痕跡といえるだろう。

 かのマリー・アントワネットは、豪華な蒔絵が施された漆器を熱心に収集したと伝えられ、現在でもそのコレクションと呼ばれる80点がベルサイユ宮殿やルーブル美術館、ギメ美術館などに収蔵されている。19世紀後半~20世紀初頭にパリやウィーンなどで開かれた万国博覧会でも漆器は、陶磁器などとともに日本の代表的産品として展示された。これら日本の工芸品が欧州の芸術家や工芸家に大きな影響を与え、そして「ジャポニズム(日本趣味)」の大流行へとつながっていく。

出土品の櫛。縄文前期の作とされる。朱漆が鮮明に残っている。

 ただ、こうした美術作品としての漆器は、日本の漆器全体からみれば一つのジャンルにすぎない。長い歴史を通じて庶民が使う食器から支配階級が使った調度品、建築、茶道具まで、実に多種多様な漆器が日本で作られ、使われ続けてきた。

 その歴史は、縄文時代にまでさかのぼることができる。北海道の垣ノ島B遺跡からは漆製品が多く出土しており、それらは世界最古で約9000年前(縄文時代早期)のものとされている。新潟・大武遺跡でも漆製品が出土し、それらは約6600年前のものという。私たちの先祖はこの時代にはすでに、漆の強い接着力と堅牢な塗料としての役割を見抜き、それを活用する技を生み出していたのである。

 もっとも、漆器を生産してきたのは日本だけではない。7000年前から漆器が作られていたことが分かっている中国をはじめ、朝鮮半島、タイ、ミャンマーでも漆器は作られ、その歴史は今日まで続いている。

 もちろん現代の日本にあっても、漆器は作られ、使われ続けている。身近な代表例が漆椀だろう。漆椀をあらゆる階級が使うようになってからでもすでに1000年近くが経つという。旧家の蔵などには今でも、家具と呼ばれる汁椀、飯椀、惣菜を盛る各種椀から膳、飯櫃、湯桶に至るまで、すべてが漆塗りの膳部(食器一式)が何十人前と保存されていることが珍しくない。