もう一つの道

 もう一つのアプローチは,長い間だれにも顧みられなかった倫理的フランチャイズのような発想だ。技術による解決に加え,社会の仕組みを変えてエネルギー消費を減らす。しかし,こちらは経済成長との折り合いが悪い。そんな発想をしたら,とたんに「企業間の競争に負ける。雇用が減り,所得が下がるに決まっている」などという声が聞こえて来そうだ。政府や企業,労働組合など産業セクターの発言力が強い日本では,とくにそうだろう。

 しかし,日本や米国に比べて市民社会,地域社会の発言力が強いヨーロッパでは,こうした逆戻り型の発想はそれほど奇異ではない。さきほどの小泉さんの著書にもたくさん紹介されているが,ヨーロッパには行き過ぎた物質文明,消費文明を危惧する思想が強く,地球温暖化も当然,その文脈の中で捉えられている。技術論も大事だが,ライフスタイルの転換(伝統的価値観への回帰)の方が重要だと考える。経済活動との間で摩擦音をたてながら最適解を求める作業が続いている。

 日本もいずれそうなると思う。毎年,春と秋に新モデルを発表し,さまざまな機能を加えて成長してきた日本の携帯電話。ある局面までは立派なビジネス・モデルとしてもてはやされたが,最近はパッとしない。成長には限界がある。急いで競争しても,大量の廃棄物を出して,成長の限界に当たる。IT技術や輸送技術の高度化で,ビジネスのスピードはいくらでも速くできるようになった。それで,いくらか高い給料はもらえるのかもしれないが,市場という資源をすぐ使い果たしてしまう。

 地球温暖化を,こうした問題を見直すきっかけにした方がいいと思う。ビスケットのトラック輸送がムダであるかムダでないかは,これまでは難しい問題だった。ムダのように見える経済活動が,人々を豊かにしていたからだ。しかし,地球温暖化問題はそれに対して,明確な基準を示した。それはムダな行為であり,できるだけそんなことをしなくて済む社会に向かわなくてはならないのだと。たぶんその基準は,当分の間,正しいのではないだろうか。問題は,どういうプロセスで進めばよいかということだ。皆さんのご意見を聞きながら,このコラムを通じて考えて行きたい。