あちら側技術とこちら側技術

 技術のルーツを考えてみると大きく分けて二系統の出自に分けることができるように思います。食器や文具のような日常の生活の利便に供する道具作り由来の世界と、治山治水などのインフラ土木工事のような世を治める政治に直結する技術の系譜です。太古の昔から、後者を制する者が時の為政者となってきました。星の観測からナイルの氾濫時期を算出予測し、治水灌漑技術で水害を防ぐと同時に新田を開墾していったのです。武田信玄の信玄堤などもそのよい例でしょう。後の江戸時代に甲州流河除法と呼ばれた当時のハイテクは、戦国時代には門外不出の国家安全保障技術だったといいます。インフラ向けの高度な要素技術を握る者が時の為政者たりえたのです。

 現代ユーティリティの御三家というと、水道、ガス、電気でしょうか。生きていく上で欠かせない水とエネルギーです。これに物流を加えて道路や鉄道などの交通網も重要な一員でしょう。これら古参のメンバーにあわせて、情報関連のユーティリティメンバーがどんどん増えてきたのが最近の傾向です。郵便や電話が主役だった時代から、ラジオ・テレビ、ネット、携帯、無線LANなどが生活に不可欠なインフラになってきました。治水技術に端を発したユーティリティの技術も、流すものがアトム(モノ)の時代からビット(コト)へと価値がシフトしつつあるのです。

 流すものが情報という実体のないものになると、配給する仕組みも軽装化しつつあります。水道管も道路網も、電力線にしても大規模な土木敷設工事が必要でしたが、無線の基地局を作るだけで有線を敷きつめる必要のないシステムの登場です。

 もう一つこの「情報網」の特徴は発生源が不特定という点です。水なら水源、エネルギーなら油田地帯というようにリアルな発生源があり、そこを利権や武力で治める者が富をコントロールできました。ところが情報の場合には、発生源自体が散らばっているので、むしろネットワークの中の結節点をいかに抑えるかということが重要になるでしょう。旧来のワンウェイマスメディアの時代ならテレビ局や新聞社に検閲をかければ済みましたが、双方向化してボトムアップにも大量の情報が発生するようになった現在では結節点を抑えるしか手がありません。