一般の消費者は、よく知らない。「すべて横長に」と聞いてすぐに総務省のホームページにアクセスしてみるのは少数派で(当時はそんな手段もなかったけど)、多くの人たちは「そうかぁ、じゃあ買い換えなくては」と思ってしまうのかもしれない。けれど、それが虚偽だったことが露呈すれば、信頼は不信感へと転化していく。それを最小限に防ぐのが「事後対応」というものだが、メーカーは横長画面をやめるどころか、主力製品のほぼすべてを横長画面にして選択肢そのものを消してしまった。で、4対3の番組を無理やり横に引き伸ばして16対9の画面に映しているのである。

 だが、素人にはちょっと識別できないような画質の差を言い立てるメーカーが、丸い月や自動車の車輪が楕円にしか写らない画面をどうして許せるのだろうか。それに強烈な違和感を抱き、画面の左右が黒い帯となる「ノーマルモード」を使ってこの事態を避けている私などは少数派で、多くの人たちは慣れてしまって特に疑問も感じないのだろう。「だから問題ないでしょ」と言われればそうかもしれないけど、依然として私は不満なのである。

こんなご時勢だから

 そんなことがあるものだから、「サイエンスをバックボーンにもつ技術者が支えているメーカーなら大丈夫、信頼できる」と思いつつも、いくばくかの疑念が消えない。悪い誘惑にふらふらと、などということにならなければいいがと。

 目を転じれば、米国では金融界がえらいことになっている。景気後退への警戒感は世界を覆い、多くのメーカーが設備投資を凍結し、経費や人員の削減を検討し始めていると聞く。そんなご時勢だから、技術者にはこれまで以上に利益確保を求める叱咤の声が浴びせ掛けられることだろう。邪な道に走りたくなる要件は揃っているのである。

 こんな時代、状況だからこそ「誠意」や「自制心」というものが必要なのだと思う。いやいや、他人事ではない。改めて肝に銘じなければと自戒する今日このごろである。