行動経済学が説くところによれば「企業はまず現状維持をしようとする」ものらしい。しかし肝心の顧客の心にはとっくの昔から別な価値観が芽生えていて、その企業の作り出す物には関心がなくなっている。そんなケースを最近よく見かける。

 例えば自動車だが、バズマーケティング(バズとは蜂がブンブン飛び回っている音の意味で、SNSなどコミュニケーションサイトで話し合っている内容から消費者の本音を拾いだしてビジネスの参考にするオンラインマーケティング手法)から導き出された若者の車離れの原因の一つと思われる要因に「車はジャマ」というものがある。これが本当だとすれば、自動車メーカーが現状を維持しようとあの手この手を繰り出しても、たぶんそのほとんどで効果は望めない。好ましい車がないというのではなく、若者は車というもの自体をいらないものと考えているわけだから。

 では若者が本当に望んでいる物事とは何か。若者に限らず、顧客は潜在的に何を欲しがっているのか。これを知ることこそが、目先の現状維持に奔走する旧態企業を尻目に新しいマーケットに新しいビジネスを発見する手段なのである。たぶん。

 顧客うんぬんを論じる以前の問題として、そもそも自分の要求を満たしてくれるものはこの世にあるのだろうか。二輪車と二輪車業界に詳しいM氏と雑談をしながらそんなことを考え、こう切り出してみた。

「突然なんだけど、エコバイクで世界遺産を巡りたいんだよね。何かいいバイクないかなぁ。ホームページで水素エンジンバイクの試作機を見かけたんだけど、あれで5大陸とか走破してみたいよなぁ。まだ公道を走れる許可がとれていないだろうから、あと数年は待つしかないか」