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鍛冶という職人

 日本の鍛冶屋は大きくわけて三つに分類できる。刀匠と野鍛冶、それに道具鍛冶だ。

 日本刀は、現代は美術品として扱われる。それを手掛ける刀匠は、試験に合格しなければ刀匠とは名乗れない。これに対して、生活に使う道具を作り出す匠が、野鍛冶と道具鍛冶ということになる。

 野鍛冶は大まかに言えば、近隣の住人のために鉄でできた刃物、道具類を作り、修理する職人である。作る品物はクワ、鎌から馬の蹄鉄や釣り針に至るまで実に多岐に渡る。土地の人々が必要な鉄製品を作り、鋼を接ぐ「先がけ」などの修繕を行う、鉄のよろず医者的な存在だ。

 道具鍛冶は、ある程度限定された刃物、道具類を専門に作り出す鍛冶である。プロフェッショナルのための刃物類を作る、いわば職人のための職人だ。野鍛冶や道具鍛冶が作り出す刃物を総称して、打刃物(うちはもの)と呼ぶ。


 鑿(のみ)や鉋(かんな)、鋸(のこぎり)、玄能(げんのう)などを作る大工道具鍛冶は、道具鍛冶の中の一分野にあたる。左久作(ひだりひささく)はここに分類される鍛冶職人だ。

 そんな左久作の仕事場はごく小さい。入り口に立つと、左半分にスプリングハンマー(モータ動力で駆動する機械式ハンマー)が置かれ、その奥にはグラインダーがすえられている。電動の機械はそれくらい。あとは、ごく小さな水槽と砥石台、金床といった昔ながらの鍛冶の道具立てが所狭しと配置されている。

「私どもが手でやるのは、余計な機械がいらないからです。機械が入れば、それだけ余計な事をしなきゃいけない」

 減価償却のために、生産量を増やしたりっていうのは、私どもにとって余計なことなんです。そう池上喜幸(のぶゆき)は続ける。

 左久作のようにオーダーメイド専門というスタイルを取ると、1本1本、使い手にあわせた道具を作ることになる。だから、数多く同じものを作る機械とは相性が合わないし、今までのやり方を変える気もない、ということだ。