自前で建設するため,途中駅を作るつもりはあまりないようだ。従来は,山梨県から谷あいに沿って比較的人口の多い諏訪地域まで行き,中央西線に沿って名古屋に向かうルートが考えられていたが,JR東海は山梨県から南アルプスの直下にトンネルを通して,名古屋までを最短距離で結ぶという。建設費を削減し,同時に時間も短縮できる。

 もう一つ,別の側面もある。出口(実用線計画)がなく,袋小路に迷い込んでいた旧国鉄時代から続くリニアモーターカー技術が,この計画でようやく日の目を見ることができる。筆者は2年ほど前に,日本の超電導リニア技術が実用化できずにお蔵入りになっている状況を嘆いて記事を書いたことがあるが,その時はこんな解決策があるとは思わなかった。

 もっとも,リニア新幹線は21世紀の交通手段としては,はたしてどうなのかという議論もある。東海道新幹線がモータリゼーションの流れに反していると批判されたように,リニア新幹線はこれからの低炭素社会という潮流に反しているように見える。正確な数字が手に入らないのだが,リニアモーターカーの乗客1人当たりの輸送エネルギーは,一般の鉄道よりかなり大きいと思われる。また,全線にわたり側壁に浮上用コイルを敷設するという構造や,先ほどの山間部のトンネル掘削など,建設時に大量のエネルギーが必要という面でも,環境負荷が大きなプロジェクトになりそうである。

21世紀における鉄道の役割

 今でも日本各地には,赤字で廃止寸前の地方鉄道がたくさんある。過疎化や高齢化による利用者の減少などやむを得ない事情もあるのだろうが,なぜかもう少し頑張ってもらいたいと思ってしまう。華やかな中央リニア構想もいいのだが,田舎のあぜ道のような線路をコトコト走る地方鉄道の方が,なぜか21世紀的な交通機関として似合っているように思える。

 2050年には,世界のCO2排出量を現在の半分に減らすという目標が掲げられている。その場合,日本など先進国は,現在の80%減のレベルまでCO2排出量を減らす義務があるとされている。これは,ちょうどモータリゼーションが起きる前の,昭和30年前半のレベルである。鉄道がみんなに愛され,生活の足として生き生き活躍していた時期である。さまざまな変遷を経てきた日本の鉄道だが,持続的成長社会の交通手段として再び光り輝くまで,なんとか頑張ってほしいものだ。