新幹線は,広軌の新線による高速走行という特徴以外に,線路への人の立ち入り防止や踏切の廃絶といった高い安全性,ATC(自動列車制御)やCTC(列車集中制御)の採用,全編成同一座席レイアウトとコンピュータ発券システムなど,さまざまな革新的アイディアが盛り込まれていた。つまり単なる高速鉄道ではなく,新しい鉄道システムというコンセプトだった。

 もしも新幹線がなかったら,大量輸送をまかなうために首都圏,近畿圏にはたくさんの飛行場ができ,大型旅客機が飛び交っていただろう。あるいは,東京・大阪間には現在より3~4本も多い高速道路が作られ,大量のバス輸送が行われていただろう。その結果,交通事故死は現在より数千人から1万人も増えていたことだろう,などという専門家の推測がある。本コラム的に言えば,もし新幹線がなかったら代替手段が航空機であれバスであれ,現在よりはるかに多くのCO2が排出されていたことだろう。

今また,リニア新幹線の構想が

 年間に1兆円以上を売り上げる東海道新幹線は1日の列車本数295本,輸送人員37万5000人(2006年度)という過密ダイヤで営業され,今後さらに需要増が見込まれている。それを見越して,JR東海は2007年12月に東京と名古屋を結ぶ「中央リニア新幹線」を2025年開通目標で,全額自己負担で建設するという構想を発表した。総工費は5兆1000億円で,完成すれば東京・名古屋間(約290km)を時速500kmの超電導リニアモーターカーが40分程度で結ぶことになる。

 この計画は,国の新幹線整備計画に縛られずに民間だけで実施するという画期的な意志表明である。東海道新幹線というドル箱路線のバイパスとして,安定した収益が見込まれるとは言え,これほどの長距離路線を全額,自費で建設するというのはこれまでにない発想である。