和魂洋才

 何かのテーマを考える時、反対語を考えると整理しやすくなります。前回はモノづくりの反対にモノ売りを置いてみて考えました。今回はモノづくりに必要な一つの要素である技術について考えました。技術の反対語として一つの方向性には「芸術」があり、また別の角度での反対語とは、実用化・実践するという意味での作るではなく、「理論」を作るという方向性だと考えました。芸術か技術かという視点では境界があいまいで、理論か実践かという文脈では両者の関係性がフラットだというのが私たち独特の技術観のようです。

 どちらが良いという話はしていません。それぞれの土地に長い歴史にあわせて進化してきた勝負観や仕事観があり、それらをベースに生まれてきたそれぞれに最適化された技術観なのです。背景とセットなので簡単には移植できません。「和風とグローバル風の良いところ同士を融合させて相乗効果を狙いましょう、和魂洋才です」などとよく言われます。自然科学に携わったことのある技術者の皆さんは、肌感覚でご存知のことと思いますが、相乗効果という良い響きの現象を人為的に見つけ出すのは極めて難しいことです。滅多に生じない例外的ケースであって、大概の異物の組合わせは長期的には相殺効果に終わってしまいます。ほんの少しのスパイスくらいの使い方でないと大事なものを相殺効果で失う部分の方が大きくなってしまうことでしょう。和魂洋才にしても軸足のない和魂洋才は洋魂和才となってしまい、魂の無い仏像になり果ててしまいます。主軸は常に和風と認識しておくことが重要です。そしてその和風とは、勝負観や仕事観、技術観いずれの粒度においても世界の「逆張り」、明らかに異色なものです。「異色」には珍奇・少数派・負け組候補というネガティブな意味と、独自性・差別化要因というポジティブな意味が含まれています。どう解釈するかが肝心です。

著者紹介

川口盛之助(かわぐち・もりのすけ)

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社シニアマネージャー。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある。

本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。