CSRのすれ違い

 企業の社会的責任は重要である。日本でもCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)はブームの様相を呈している。だが、ここでも世界の視点とすれ違いが起きているようである。

 いま、地球社会は多くの課題を抱えている。温暖化問題は当然として、貧困問題、安全な水問題、難民問題、人権問題などなど。いずれも世界の視点からは深刻な問題である。それらが世界のCSRの視点である。企業に属する人たちも、個人に立ち返れば、こうした問題に関心と理解をお持ちの方が多くいらっしゃることと思う。けれども企業という組織でみたときに、日本の中でどれほどが温暖化問題はともかく、それ以外の世界の課題に理解を示しているであろうか。いったい日本企業はこれらの世界の問題にどう取り組もうとしているのだろうか。

 例えば1999年1月のダボス会議で当時のアナン国連事務総長が呼びかけて始まったグローバルコンパクト(グローバリゼーションの負の遺産の解消に企業が取り組んでいく運動)の活動一つをみても、その理解と具体的活動において、日本企業は世界に遅れを取っていると思わざるを得ない。

内なる国際化

 個々の人たちの努力によって、日本は世界にない強みをたくさん持つに至った。だが、それらを本当に活かし切れているとは思い難い。多くの要因があるだろうが、その一つが国際的視点や国際的論理構成のすれ違いであると、私は感じている。そうだとすれば、日本はこれから世界と付き合っていく上で、どうしたら世界と同じ視点を持ち得るのだろうか、そして、どうしたら世界を説き伏せる論理性を獲得できるのだろうか。これこそが内なる国際化の課題である。

 さらに付言すれば、このような内なる国際化は単なる海外との付き合い方だけの問題ではない。日本人自身が21世紀をどう生きていくのかという問題でもあるのである。

著者紹介

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう)=国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)特別顧問

1945年1月、鹿児島県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。ニューヨーク支店長、同行取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。日興アセット時代にUNEPFIの運営委員会のメンバーに就任したのをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。2002年6月の退社を機に、UNEPFI国際会議の東京招致に専念。2003年10月の東京会議を成功裏に終え、現在も引き続きUNEPFIにかかわる。企業の社外取締役や社外監査役を務めるかたわら、環境問題や企業の社会的責任(CSR/SRI)について、各種審議会、講演、テレビなどを通じて啓蒙に努めている。趣味はスポーツ。2003年ワイン・エキスパート呼称資格取得。著書に『日本新生』(北星堂)『カーボン・リスク』(北星堂、共著)『有害連鎖』(幻冬舎)がある。