世界的な競争は,日本企業の在り方に強い影響を及ぼす。恐らく多くの日本企業が,欧米で1980~1990年代に確立した水平分業体制への移行を余儀なくされるだろう。意思決定の迅速さや経営資源の集中などで,日本流の垂直統合型よりも有利になることが多いからである。現在の国内大手電機メーカーの体制を保ったままで,水平分業型の企業に伍していくことは難しい

 例えば,製造部門を抱え続けられる企業は,今後はごく一握りとみられる。半導体の世界で,自社工場を運営していけるのが米Intel社や韓国Samsung Electronics社のように巨大なシェアを持つ企業に限られるように,製造部門を持てるのは,世界市場へ向けて大量に製品を出荷する企業のみだろう。海外では,Apple Computer社のiPodや米Motorola社の薄型携帯電話機といったヒット商品の生産を手掛ける台湾Hon Hai Precision Industry社など,年間の売上高が数兆円に達する巨大なEMS企業が誕生している。こうした企業を活用した方が,自社工場よりも安価に高品質の製品を作りやすくなる。

 垂直統合,水平分業のどちらの道を取ったとしても,間違いなく言えるのは,他社と同じことをしていては,激化する競争を生き残れないことである。他社と似通った製品やサービスでは,あっという間に価格競争に陥り,ほとんど利益を生むことができない。

 切りのない低価格化を抜け出す一つの方法が,他社に先駆けて新しい事業分野を開拓し,他社に追い付かれない手を次々に繰り出すことで高いシェアを維持する「独り勝ち」の手法である3)。既存品と同等の価格で比類なき価値を実現した事実上競合品がない製品と,他社が二の足を踏む技術や製品分野を精力を傾けて開拓するリスクを取る姿勢が重要になる。キヤノンのデジタル一眼レフ・カメラやソニーのHDTV対応ビデオ・カメラなど,日本企業もこうした製品を出している。今後のネットワーク時代にも有効な手段だろう。

中心はあくまでも技術者

 これからの時代には,技術者の在り方も変わりそうだ。企業の水平分業化の動きを突き詰めると,それぞれの専門の領域で卓越した能力を持つ技術者が連携する形態に行き着く。いずれは個々の技術者がネットワークでつながり,プロジェクトごとに有機的に開発組織を形成する時代が来るかもしれない。Linuxの開発など,オープンソース・ソフトウエアの分野では,こうした形態が既に実現している。もちろん技術者がいつも無償で働くわけにはいかず,富を分配する仕組みなど制度面の整備が必要だろうが。