こうした役割分担を実現する技術は,早くも整い出している。米Google社の「Google Maps」や「Gmail」といったサービスは,Ajaxと呼ぶ手法により向こう側にあるアプリケーション・ソフトを,あたかもこちら側で動作しているかに見せている。最近のWWWサイトでは,端末の種類に応じて動的にコンテンツを変更して送り返す環境も整ってきた2)

 「見えない機器」では製造技術も現在と変わるだろう。有機半導体を用いた印刷法が活躍しそうだ。うまくいけば現状よりも大幅に安価に集積回路を製造でき,使い捨ての電子機器さえ実現するかもしれない。プラスチック基板を用いて,曲げられる機器を作ることもできそうだ。大面積の素子の製造に向くとされ,壁面大の画面も実現可能といわれる。

 ネットワークの「あちら側」でも,エレクトロニクス・メーカーの仕事はごまんとある。機能の大半があちら側に移るとすれば,むしろそこでの開発の比率が高まるかもしれない。まず,多数のユーザーに効率よくサービスを提供するためのハードウエアが必要だ。Google社は数十万台以上といわれるコンピュータを同時に稼働させているという

 その上で動作するソフトウエアの構築も負けず劣らず重要である。特にこれからは,サーバー側に蓄積される膨大なデータから「意味」を見いだす技術が必要になるとみられる。多くのユーザーの行動履歴からユーザーの嗜好を導き出したり,建物に埋め込んだセンサのデータから建物の寿命を判断したりといった技術である。

 このことに最も自覚的な企業がGoogle社だろう。同社は既に,WWWサイトや電子メールの内容を解析し,それに応じた広告を表示して生計を立てている。同社は現在,動画や音声,書籍など,世界中のありとあらゆる情報をサーバーに蓄積しつつある。そこから,いかにして有用な知識を引き出すのか試行錯誤していると推測する向きが多い。

解体迫られる日本企業

 以上はあくまでも仮説であり,本当にこの通りに現実が進むかどうかは分からない。ただし,今後もエレクトロニクス業界を潤わせる種に事欠かないことは確かだろう。自動車や健康関連,安全・安心,環境対策など,市場拡大を期待できそうな新たな領域を示す言葉が幾つもある。

 しかし,それぞれの市場が必ずしも個々の企業に恵みをもたらすとは限らない。むしろ企業間の競争は,ますます激しくなる見込みである。中国やインドなどの新興国の企業が台頭する上,各国の市場を分かつ境界が消えつつあるからだ。