想像をたくましくすれば,世界中に張り巡らせたセンサ群が,ありとあらゆる事象を電子化してネットワークに取り込む未来が来るかもしれない。そうなれば,思うがままに過去を呼び起こしたり,確度の高い未来の予測さえ可能になるだろう。これを目指した研究開発が始まっている。ユーザーがアクセスしたすべての電子データの保存を目指す米Microsoft社の「MyLifeBits」や,「バーチャル・タイムマシン」というキーワードを掲げた東京大学などの研究である。

 こうしたサービスは,より多くのモノやコトをネットワークにつなぐほど価値が高まる。これを端的に表現したのが,Ethernetの開発者として知られるRobert Metcalf氏が提唱した「メトカーフの法則」である。いわく「ネットワークの価値はユーザー数の2乗に比例して増える」。「ユーザー」に,ヒトだけではなくモノやコトを含めれば,ネットワークの価値は今後も際限なく高まる。これが電子産業のこれからの成長を導く指針ではないか(図1)。

図1 ムーアの法則からメトカーフの法則へ1)
図1 ムーアの法則からメトカーフの法則へ1) (画像のクリックで拡大)

 これまで電子機器の成長を支えてきたのが「ムーアの法則」であることは疑いを入れない。機器の数値競争の根底には,LSIの集積度を高めることで,機能や性能を引き上げ続ける構図があった。高い性能や機能に消費者が対価を支払わなくなってきたことは,この方法論の限界を感じさせる。技術面でもムーアの法則に従うことは次第に難しくなっている。

 メトカーフの法則には,こうした限界が今のところ見えない。ネットワークにつながっていないモノやコトは無数にある。最終的なゴールが世界をネットワークに寸分たがわず写像することなら,その成就は果てしない先にある。

機器は見えなくなる

 この方向が正しいとすれば,エレクトロニクス企業には大きく二つの活躍の場がある。いわゆるネットワークの「こちら側」と「あちら側」である。