ところがソニーの開発は,業界で一瞬注目を集めた後,深く潜行してしまう。一方で携帯機器向け燃料電池の表舞台に躍り出たのがNECや東芝,日立製作所,カシオ計算機,富士通研究所などである。国内外の展示会において,ノート・パソコンやPDA,携帯電話機の試作機を矢継ぎ早に出展した。セルの単位面積当たりで取り出せる電流の値(出力密度)や,ノート・パソコンの連続駆動時間を激しく競い合った。無線LANやPHSを使った外出先でのデータ通信市場の拡大時期と重なったため,消費者からもノート・パソコンや携帯電話機の駆動時間を増大する次世代技術として大きな期待を集めることになった。

 中でもNECと東芝は,当初は2004~2005年の発売を目指すなど強い意気込みを見せていた。その後,航空機への持ち込みなど法規制に関する課題やマーケティング面での課題に直面し,発売目標時期は2007年以降にずれ込んでいる。2003年には,ダイレクト・メタノール型燃料電池に関する特許問題まで噴出した。

表1 携帯電話機用外付け燃料電池の試作品 本誌2005年8月1日号より。
表1 携帯電話機用外付け燃料電池の試作品 本誌2005年8月1日号より。 (画像のクリックで拡大)

 現在,携帯機器向け燃料電池には強い追い風が吹いている。KDDIおよびNTTドコモが,携帯電話機の駆動時間伸長を目指して燃料電池への大きな期待を表明しているためである(表1)。両者とも,まずは携帯型充電器として,できるだけ早期に発売したい意向を示す。燃料カートリッジの業界標準仕様などが決まり,航空機への燃料カートリッジ持ち込みが一部で解禁される2007年には,いよいよ製品版が市場にお目見えすることになりそうだ。

蓬田 宏樹