Emotion EngineとGraphics Synthesizerは,2004年に投入した90nmルール品で,ついに1チップにまとまった(図2)。この結果,チップ面積は86mm2と,発売当初の2チップを合わせた面積に比べて1/5以下となった。同時に,消費電力も当初の37Wから8Wへと大幅に減り,放熱対策部品のコスト削減などに貢献した。その象徴といえるのが,SCEが2004年11月に発売した4世代目の「SCPH-70000」である。従来機に比べて体積比で1/4,質量比で1/2と大幅な小型化を果たした。PS2の累計出荷台数は,発売以来5年9カ月ほどたった2005年11月29日に,1億台を突破した。

図2 二つの基幹LSIを1チップに統合 Emotion EngineとGraphics Synthesizerを集積したチップ。90nmルールで設計した。
図2 二つの基幹LSIを1チップに統合 Emotion EngineとGraphics Synthesizerを集積したチップ。90nmルールで設計した。 (画像のクリックで拡大)

Cellに託す

 ゲーム機としては順風満帆に実績を上げたPS2だが,半導体事業という側面から見ると,当初の目的をすべて果たせたわけではない。もくろみが外れたのは,他の民生機器へのEmotion EngineやGraphics Synthesizerの搭載である。ソニーが2003年12月に発売したDVDレコーダー「PSX」や一部のテレビを例外として,採用は進まなかった。東芝は,Emotion Engine用に開発したCPUコアのライセンス販売を目的として2001年に米ArTile社を設立したが,はかばかしい成果を上げられないまま2003年に解散している。

 家庭用ゲーム機向けに開発した半導体を,広くさまざまな民生機器に応用するという狙いは,2006年11月に発売予定の「プレイステーション 3」に向けたマイクロプロセサ「Cell」が引き継ぐことになる。Cellの設計は当初から,集積するCPUコアの数を用途に応じて変えることを想定して進められてきた。その青写真通りに普及すれば,Cellが半導体産業に与えるインパクトは,Emotion EngineやGraphics Synthesizerの比ではないはずだ。

枝 洋樹