端末の進化の過程でとりわけ重要だったと感じるのが,端末の出荷後にもソフトウエアを追加できるようになったことである。米Sun Microsystems社の「Java」や,米QUALCOMM社の「BREW」などのソフトウエア・プラットフォームを整備したことが大きい。これによって家庭用ゲーム機からのゲーム・ソフトの移植が進むなど,携帯電話機向けにさまざまなアプリケーション・ソフトウエアが登場した。

 こうしたソフトウエアの充実に伴い,携帯電話機向けの部品市場も大いに活気づいた。端末が搭載する3インチ以下の小型液晶パネルやCMOS/CCDカメラ,2次電池,音源LSI,各種受動部品などの機能や性能が年々向上した。国内市場をバネにして,国際市場でも大きなシェアを握る部品メーカーは少なくない。

 通信事業者にとっては,第2世代(2G)といわれる低速のデジタル通信方式から高速の第3世代(3G)方式に変わるタイミングが重要な世代交代だが,ユーザーにとっては,端末の多機能化が一気に進んだこのタイミングが世代交代といえよう。この機に乗じて世界市場の市場シェアを一気に上げたのが,Samsung Electronics社やLG Electronics社といった韓国勢だった。高機能化で先行した国内メーカーが,世界市場で存在感を示せていないのはとても残念である。

亜流か主流か

 冒頭の榎氏への取材で印象に残っている話題が「まるでハムレットの心境」と語った,通信プロトコルの選択だ。当時,世界中の通信事業者や機器メーカーが担いでいたのが,モバイル専用の「WAP(wireless application protocol)」と呼ぶプロトコル。一方,永田清人氏,夏野剛氏という端末開発,サービス開発のキーマンは,いずれもインターネットで使われるプロトコルを支持していた。板挟みとなった榎氏は,どちらを選択すればいいか迷っていたことを話してくれたわけだ。

 結局iモードはインターネットで使われる通信プロトコルを中心に据え,コンテンツ記述用にはHTML(hypertext markup language)系の言語を採用した。この選択によってモバイル向けのコンテンツ市場が急拡大し,当初のWAPはインターネット系の規格を取り入れて生まれ変わることになった。「業界」の動向を見ていた私自身は,当時WAPが主流になるのではないかと考えていた。視野が狭かったと反省するとともに,横並び意識や輸入傾向が強い通信業界に一石を投じた動きに新しい流れを感じた。

菊池 隆裕