電子技術なくして成立しない

 モーターショー後,間もなくしてプリウスは発売された。価格は215万円。当時は「搭載するNi水素2次電池だけで200万円はするのでは」といわれ,「売れば売るほど赤字になるはず」ともうわさされた。だが消費者には好意的に受け入れられ,クルマづくりの大きなキーワードとして「環境対応」がクローズアップされることになった。

 その後,プリウスに追い付けとばかり,ホンダが1999年11月に「インサイト」,日産自動車が2000年4月に「ティーノハイブリッド」,米Ford Motor社が2004年秋に「Escape Hybrid」といったハイブリッド車を相次いで発売した。一方,プリウスは2006年4月に世界での累計販売台数が50万台を超え,同車の後に投入された他のハイブリッド車も含めると,トヨタ自動車のハイブリッド車販売台数は現時点で60万台に上る。究極の環境対応車といわれる燃料電池車が実用化されるまでの中継ぎ役とみられていたハイブリッド車は,今や堂々と環境対応車の切り札になった。

 プリウスは自動車業界に新たな流れを作っただけではない。エレクトロニクス業界に自動車という新たな成長市場をもたらした。2次電池,モータ,半導体…。ハイブリッド車はこれらの電子部品なしには成り立たない。プリウスの登場をキッカケに,ガソリン車の電子化も一気に加速し始めた。クルマの基本性能である「走る,曲がる,止まる」を向上させ,安全性や快適性などを高めるためだ。通信技術などを介して車外のさまざまな情報を車内に取り入れて活用するITS(高度道路交通システム)やテレマティクスといった技術をも,クルマは身にまとうようになった。

 半面,クルマの電子化によって新たな課題が浮上している。増大するマイコン数に伴って肥大化する一方のソフトウエア開発にどのように対応するのか,車内LANによって互いに接続したいくつもの電子システムをどう協調させて制御するのか…。これらを解決するには,自動車メーカーとエレクトロニクス・メーカーがこれまで以上に密接に協力する必要がある。

 プリウスとは,ラテン語で「先駆け」を意味する。電子技術を満載した次なる先駆け車の登場に注目したい。

田野倉 保雄