汎用機の領域に迫る

 32ビット・マイクロプロセサの開発に当たっては,各社とも機能・性能の大幅な向上を図った。まさに,スーパーミニコンや汎用機の領域に迫ろうとするものだった。こうした高機能・高性能がパソコンに実装され,一般ユーザーがこれらを享受できる時代が到来したのである。

 性能面では,どのチップも当初から1MIPS(million instructions per second)内外,あるいはそれ以上の処理性能を実現していた。動作周波数はほとんどのチップが10MHz超を実現しており,当時としては驚きをもって迎えられた。

 機能面では,32ビット化によって論理アドレス空間の大幅な拡張が実現された。MC68020は32ビットとしては標準的な4Gバイトのリニア空間を持った。セグメンテーション方式を採った80386に至っては,実に64Tバイトのアドレス空間を持つ。16ビット・プロセサでは普通は16Mバイトどまり,セグメンテーション方式の80286でも1Gバイトだったことを考えれば,その大幅拡張ぶりがよく分かる。高級言語サポート機能が大幅に強化された点も特筆に値する。

 このほか,高速化にともなうキャッシュ・メモリの内蔵,広い論理アドレス空間に対応したメモリ管理ユニットの内蔵も32ビット・プロセサの特徴といえる。

 完全なRISCとはいえないが,RISC風アーキテクチャの出現も32ビット時代のトピックであった。Inmos社のトランスピュータ(「T424」)などがその例だ。後にRISCチップの開発が相次ぐこととなる。

四半世紀を経て64ビット時代に

 32ビット・マイクロプロセサの登場から四半世紀を経て,世の中は既に64ビット時代に突入した。この間,特にパソコン用プロセサはほぼIntelアーキテクチャに収斂してきたが,性能向上も著しい。今日ではインターネットの発展と相まって,高性能パソコンは当たり前のものとなっている。家庭,企業を問わず,ほぼすべての人が日々これらに接しているのはご承知の通りである。

 今考えると,1980年代の32ビット・マイクロプロセサの出現が,今日のこうした現実への大きな一里塚であったといえるのではないか。

山村 徹