1983年,米Massachusetts Institute of Technologyは,RSA暗号に関する特許を取得した。

図1 本誌の1978年9月4日号
図1 本誌の1978年9月4日号 (画像のクリックで拡大)

 暗号は今や,情報インフラのセキュリティーを支える基本技術となっている。例えば,最近の「おサイフケータイ」にも暗号技術が応用されているのである。

 だが現在のような暗号技術の開発が始まったのはさほど古くはない。米国でも1970年代に入ってからである。本誌で暗号の記事が初めて登場したのも1978年9月4日号であった(図11)

DESとRSAが同じ時期に誕生

 それまでの暗号技術といえば,文字通り暗闇の技術であった。国家保安のための技術であったからだ。かの有名なTuringやShannonも暗号理論の専門家であったし,世界初の実用コンピュータも暗号解読マシンであった。だが,軍用技術であった暗号は,公の場で議論されることがなかった。

 明るい表舞台に暗号技術が登場したのは,1970年代に入ってからといえる。商業利用での必要性が高まったからである。特に,オンライン上での金融取引,いわゆるEFT(Electronic Funds Transfer)分野での応用が急務となってきていた。

 その1970年代後半に誕生したのが,DES(Data Encryption Standard)暗号でありRSA(Rivest,Shamir and Adelman)暗号であったのだ。いずれも1980年代以降,実戦の場で主役を演じてきた暗号方式である。DESは,暗号鍵と復号鍵とが同一の,共通鍵暗号方式である。もう一方のRSAは,暗号鍵と復号鍵が異なり,暗号鍵を公開できる公開鍵暗号方式である。

 新しい暗号方式の出現と相まって,米国のコンピュータや通信分野の学会では,一気に暗号関連の研究が盛り上がってきた。だが国内となると1970年代後半でも,暗号技術の専門書どころか,学会論文も見当たらない状況であった。だからDESやRSAの存在も,また公開鍵暗号方式の概念も,ほとんど知られていなかった。

 商用化に向けて活発に動き出した米国では,1977年に米商務省 標準局がDESを暗号標準規格に選定した。その規格は,米IBM社が民生用として開発した技術をベースにしていた。つまり,事実上DESはIBM社が作り出していたのだ。そして1977年には同社が早くも,DESを用いた本格的な商用暗号システムを発表している。

 ただ,DESのような共通鍵暗号の運用では,送信側と受信側が同じ鍵を共有しなければならない問題があった。その鍵配送の問題を見事に解決したのが公開鍵暗号である。それを実現する暗号アルゴリズムとして,1977年に米Massachusetts Institute of Technology(MIT)のRivestたちがRSAを編み出したのである。