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日経エレが目撃した電子産業・歴史の現場

【電子産業史】1982年:IBM産業スパイ事件

互換機ビジネスめぐる日米の駆け引き

  • 2008/08/14 09:00
  • 1/3ページ

1982年,日立製作所や三菱電機の社員らによる,いわゆる「IBM産業スパイ事件」が発覚した。

 1982年6月22日,日立製作所と三菱電機の社員6人が米国内でFBI(米連邦捜査局)に逮捕された。容疑は米IBM社の機密情報を不正な手段で入手しようとした,というものである。FBIは併せて,日本国内にいる関係者12人に逮捕状を出したことを明らかにした。

 日立と三菱では入手しようとした情報の内容が異なっていた。三菱は従来の「System/370」が対象であったのに対し,日立は新しい370拡張アーキテクチャとそれを実装する未出荷の機種「3081K」の情報を得ようとしていたからである。逮捕されたのも日立5人に三菱1人,逮捕状は日立9人に三菱3人で,しかも日立のメインフレーム開発で中枢を担う神奈川工場の工場長にまで逮捕状が出ており,FBIの標的が日立であることは明らかだった。

なぜ機密情報が必要だったか

 1960~70年代,メインフレーム市場ではIBM社が世界の70%以上と圧倒的なシェアを持っていた。互換機ビジネスとは,要するに同じ機能を持ったコンピュータ(ハードウエア)をより安価に提供するものである。歴史的には米司法省とIBM社の間で争われた独占禁止法違反訴訟などの結果として生じた分野で,IBM社が公開したインタフェースに合う磁気テープや磁気ディスクといった周辺機器から始まり,やがてコンピュータ本体に及んだ。

 日本国内では1970年代初め,コンピュータ輸入自由化の圧力が強まる中で,当時の通商産業省は国内コンピュータ・メーカーの自立支援策として国内6社を3グループに分け,開発補助金を与えた。そのときIBM互換路線を鮮明にしてグループを組んだのが日立と富士通である。対象はもちろん,System/370アーキテクチャである。日立はこのとき開発した機種をOEM輸出することで互換機ビジネスを開始する。富士通は米Amdahl社を通じて一足早く参入していた。

 IBM社製のメインフレームでしか動かなかったソフトウエアが,安価な互換機で動くことをユーザーが歓迎するのは当然である。IBM社のシェアは1970年代末には50%台に低下していた。そして最も有力な互換機メーカーが,富士通とそれに次いで日立だったのである。

 互換機対策の一つは互換機を作りにくくすることだ。IBM社は1981年,新しい370拡張アーキテクチャに基づく「3081K」を発表した3)。この機種はマイクロコードの大幅採用や,熱伝導モジュール(図12)と呼ぶ特別な構造を採用するなど,互換機の開発を遅らせる要素を含んでいた。そこで日立は勇み足をしてしまったのである。


図1 「3081K」で採用された熱伝導モジュール 熱伝導モジュール(TCM:thermal conduction module)の各部の名称を示す。米IBM Journal of Research and Development誌,vol.26,no.1,pp.55―66に掲載された“A Conduction-Cooled Module for High-Performance LSI Devices”の翻訳記事より転載。 (画像のクリックで拡大)
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