図2 100万トランジスタを集積した「i860」 科学技術計算に強みを見せた。命令を二つ組み合わせて,64ビット単位で同時発行する構造を採る。VLIW(Very Long Instruction Word)アーキテクチャの走りともいえる斬新な内部構造だったが,コンパイラ技術が追い付かず十分な性能を引き出せなかった。
図2 100万トランジスタを集積した「i860」 科学技術計算に強みを見せた。命令を二つ組み合わせて,64ビット単位で同時発行する構造を採る。VLIW(Very Long Instruction Word)アーキテクチャの走りともいえる斬新な内部構造だったが,コンパイラ技術が追い付かず十分な性能を引き出せなかった。 (画像のクリックで拡大)

 SPARCの後を追ったマイクロプロセサは実に多い。米Intel社は「i860」(図2)と呼ぶRISCチップを投入したし,米Motorola社の「MC88000」,米AMD(Advanced Micro Devices)社の「Am29000」,少し遅れてIBM社とMotorola社の「PowerPC」と百花繚乱の状態となった。

ソフトの壁厚く,国産は蚊帳の外

 RISCブームに沸くなか,蚊帳の外に置かれたのが日本の半導体メーカーだった。先述のようにRISCプロセサの性能を引き出すには,優れたコンパイラが不可欠である。ところが国内半導体メーカーは,コンパイラ技術で米国に全く歯が立たなかった。このためもあって,日立製作所や富士通,三菱電機,東芝といった大手国内半導体メーカーは,究極のCISCとでもいうべきTRONチップに走らざるを得なくなった(NECは独自開発のCISCチップ「V60」を持っていた)。

 最後に,筆者がHennessy氏にインタビューした際のこぼれ話を紹介しよう。日本国内ではTRONブームが巻き起こっており,日本の技術力に対する脅威を米国がまだ感じていた1989年秋の話である。Hennessy氏はインタビュー終了後,「TRONチップをどのように評価しているのか」と筆者に逆取材をかけてきた。筆者は開発陣の努力に敬意を払い「Ultimate(究極の)CISCだと思う」と答えたつもりだったが,Hennessy氏の反応は「そうか! Ultimate(最後の)CISCか。ハッハッハッ…」。

横田 英史