この構造転換の影響は遠くまで及ぶ2~4)。整理しよう。

 (1)1社だけではエンド・ユーザーに何も提供できない。他社との協力がどうしても必要である。

 (2)大企業の意味が小さくなる。自社で何でもやろうとするには,会社は大きい方がいい。得意なところだけ自社でやって,後は他社の力を借りるなら,会社が小さいことの不利は少ない。

 (3)社外への情報発信が不可欠である。発信なしには仕事を進められない。このためにも会社は小さい方がいい。大企業では社外への情報公開の意思決定に時間がかかりすぎるからである。ハンコの数は少ないほどいい。

 (4)社外との情報交換にはネットワークの役割が大きい。ヨコ型への転換は,ネットワークの進歩普及があって現実的になった。

 (5)標準インタフェースの確立が不可欠である。各層がつながるためには,標準インタフェースが定義され,公開されていなければならない。

 ヨコ型市場における日本企業の存在感は残念ながら小さい。標準インタフェースの形成にもほとんど寄与していない。新しい標準インタフェースは次の時代の市場が向かう方向を決める。その形成で主導権を発揮しないと,方向が決まった後に,後追いで製品を出していかざるを得なくなる。市場の枠組みが決まった後に,その枠組みの中で上手に製品を作る仕事しか,日本企業には残されていないことになる。待ち受けているのは安値競争である。

 ただし,こういった問題の本格的議論が始まるのは,1990年代に入ってからだ。1980年代のうちは,日本はまだバブル経済を謳歌していた。

西村 吉雄
参考文献
1) Moore,G. M.,“Some Personal Perspectives on Research in the Semiconductor Industry,”Engines of Innovation,pp.165-174,Harvard Business School Press,1996(邦訳:ムーア,「第7章 半導体産業における研究についての個人的見解」,『中央研究所の時代の終焉』,pp.217-233,日経BP社,1998年).
2) 今井,「新しい産業組織」,『日本経済新聞』,1995年1月31日~2月6日付.
3) 西村,『半導体産業のゆくえ』,丸善,1995年.
4) 西村,「自立し分散した小集団がネットワークを介して協力する時代に」,『日経エレクトロニクス』,1996年4月8日号,no.659,pp.112-125.

本記事は,2006年7月に発行した日経エレクトロニクス創刊35周年特別編集版「電子産業35年の軌跡」から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります

―― 【次回】1980年:RISCの登場 ――