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谷島宣之の「虚實の谷間に花が咲く」

『戦艦大和ノ最期』から我々は進歩したか

  • 谷島 宣之=「経営とIT」サイト編集長
  • 2008/07/08 15:29
  • 1/5ページ

 今回のコラムの主旨は『戦艦大和ノ最期』(吉田満著、講談社学芸文庫)をTech-On!読者の皆様に紹介することである。同書を未読の方はぜひ読んで頂きたい。既読の方は改めて同書の内容を思い出し、戦艦大和の栄光と悲惨、そして現在の日本の諸状況に思いを巡らして頂きたい。

 著者の吉田満氏は学徒兵として、22歳で大和に乗り沖縄特攻に参加、戦況を仔細に観察した。『戦艦大和ノ最期』ほか関連原稿をまとめた『鎮魂戦艦大和』という単行本の後書きに、同氏は「戦闘開始に先立って、艦内の見張、報告、命令を掌握する哨戒当直にたまたま立直したという偶然が、決定的な役割を果たした。艦内全般の戦況を大局的に捕捉することは、あのような大艦では哨戒直に立たない限り、上級指揮官にも望みえぬ幸運であった」と書いている。生還した吉田氏は終戦直後、ほぼ1日で『戦艦大和ノ最期』の初稿を書き上げた。同書の主題について吉田氏は後年、次のように記している。

ここに扱われた主題、古今東西に比類のない超弩級戦艦の演じた無惨な苦闘が、はからずも日本民族の栄光と転落の象徴を形作っていることであろう。それは近代日本が明治以来の躍進の果てに到達した頂点の高さを示すとともに、みずからの手で歴史を打ち建てるのにいかに無力であるかを露呈するものであった。科学と技術の粋は非合理きわまる精神主義と同居し、最も崇高なるべきものは最も愚劣なるものの中に埋没することによって、ようやくその存在を許された。(『鎮魂戦艦大和』のあとがき)

 現代日本の豊かさは戦後の「躍進の果てに到達した頂点の高さを示す」ものだが、「みずからの手で歴史を打ち建て」られたのかどうか。昨今の「科学と技術の粋は非合理きわまる精神主義と同居」していないのかどうか。『戦艦大和ノ最期』の問いかけは現在も有効である。

 最初に『戦艦大和ノ最期』と筆者の関わりを書いておく。筆者が読了したのは2007年2月中旬だが、手元にある文庫本の奥付を見ると1994年8月1日発行となっている。つまり買ってから10年以上も放置していた計算になる。文庫本にして160ページ弱、さして長くないにも関わらず通読できなかったのは、文語体かつ片仮名表記であったからだ。ぱらぱらめくってみても内容が頭に飛び込んでこないので「これは集中して最初から読まないと駄目な本だ」と思ったものの、集中するきっかけが無かった。

 本欄の第3回に書いた通り、筆者がこの本を通読した契機は、2006年9月からTech-On!に硫黄島戦について書き出した事であった(「史上最悪のプロジェクトに挑む~硫黄島決戦と栗林中将から学ぶ」)。『常に諸子の先頭に在り 陸軍中将栗林忠道と硫黄島戦』など、硫黄島戦に関する本をあれこれ読んでいた時、『戦艦大和ノ最期』を思い出し、文庫本を探し、一晩で読み終えた。そして同書に登場する臼淵馨大尉の言動に感銘を受け、吉田氏が書いた『臼淵大尉の場合』を読むために、『吉田満著作集』まで買い込んでしまった。吉田氏は1945年、22歳で『戦艦大和ノ最期』の初稿を書いた後、日本銀行へ入行、以来日銀の仕事に専念し、50歳になってから『臼淵大尉の場合』を発表した。

 『戦艦大和ノ最期』など吉田氏が書いたものを引用しつつ、筆者なりの紹介文を書いてみたい。筆者が『戦艦大和ノ最期』を読んで思ったのは、硫黄島戦を巡る書籍群を読んで思った事と同一である。海戦と陸戦の差はあるものの、ともに「非合理きわまる精神主義」がもたらした最悪のプロジェクトであり、合理的に攻めてきた米国との違いが際だつ事例となった。その渦中にあって、臼淵大尉や栗林中将は合理的思考を貫き、しかも軍人の任務を全うした。

 大和の沖縄特攻や硫黄島の玉砕守備戦ほど悲惨なプロジェクトは現代の日本にはないが、「非合理きわまる」プロジェクトならあちこちで見出せる。ひょっとするとTech-On!読者の何人かはその現場におられるかもしれない。そのとき、我々は合理的思考を抱きつつ、しかもプロフェッショナルとして任務を全うできるだろうか。「『戦艦大和ノ最期』から我々は進歩したか」という今回の題名はそのような問いかけである。「我々」と一括りにするのはよくない。筆者に限って言うと、進歩どころか、太平洋戦争当時の先達より退化していると書かざるを得ない。だからこそ、優れた先達から学びたいと考えている。

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