「あ、あれですね」と電気屋さんは、南側の外壁と電信柱を結ぶコードを指さす。しかし、このやりとりに、私は誠意を感じた。私の経験によれば、技術系の人はあまり説明をしたがらない。それを、懇切に、いらないと思えることまで説明する。日焼けし、紺色の作業服を着ているけれど、高度な知的訓練を受けた方ではないのか。

 「分配機はどこにありますか?」

 「え、そんなものがあるのですか」

 「あるんです。天井の、板が止めてなくて外れる場所にあるはずです」

 電信柱からやってきたケーブルはどこかの天井裏で分配機を通じ各部屋に送られるのだという。そんなのは初耳だった。居間、風呂場、おばあちゃんの部屋から屋根裏部屋まで、身動きできないほど荷物でいっぱいになったわが家の恥部をひととおり案内するハメになった。そんなことをしながら、私はなにかテレビの配線といった俗世の出来事を離れ、電気屋さんと一緒に真理を探求している気分になっていた。わが家のどこかに分配室はある。ここ10年私を悩ませてきた、テレビの中心がどこかにあるのだ。

 結局、私とカミさんの寝室にある押し入れの天袋で、分配室はみつかった。そこへたどり着くため、ここ5年ため込んだ本の山を切り開かねばならなかったが。

 「アンテナ・コンセントはありますか。念のためつないでみましょう」

 「は? アンテナ?」

 「いや、テレビにつなぐ、あ、ここにありました」

 何のことはない。どの部屋にもあるテレビ用のコンセントだ。

 「○○ケーブル(地元のケーブルテレビ事業者)は鷹揚なので、アナログもデジタルもかまわず流しているかもしれません」

 電気屋さんは、持参した12インチのTVを箱から取り出し、同軸ケーブルでわが家の穴につないだ。そして、嬉しそうに笑った。