世間では、失われた人々の話をたびたびする。「昔はどこにでもいたが、見かけなくなって久しい」「昔は当たり前だったけど、ああいう人がいた頃の日本はよかったなあ」と。「町の電気屋さん」も、そんな時代的人物の仲間に入れていいと思う。

 映画『ALWAYS』にも、自動車屋のオヤジがばらばらにしてしまったテレビをリヤカーで引き取りにくる電気屋さんが登場していた。その当時は東京オリンピックだったけど、今は北京オリンピックである。そして、オリンピックといえばテレビだ。その開幕が近づいてきて、「やっぱり世紀の祭典をハイビジョンで見ないのは大損害だよな」と思うようになってきた。「いまどき、まだお前はテレビをデジタル化してないのかね」と笑われそうだが、まあ聞いてくださいな。

 私は10代から先端技術モノをなんでも買い込んできた。iPhoneなんてものじゃない。弁当箱ですか?と訝られるパソコン通信メール機能付き携帯電話も、パームもPDAもたくさん試し、なかには箱も開けずに眠っているのもある。ハイブリッド車は登場と同時に購入し、マイハシを持ち歩く環境マニアをやってみたのは80年代のことだ。

 新しい物好きにとって、ここ20年のテレビは悪夢だった。NHKの旧式アナログハイビジョン対応テレビを買ったのは、イタリアでサッカーのワールドカップをやっていた時だから、たぶん90年。規格が変わったからといって泣き言をいうつもりはない。旧式ハイビジョンは素晴らしい時間を与えてくれたし、当時のソニー製ブラウン管はいまも現役で働いてくれている。

 ところが、そこにケーブルテレビと有料放送が加わった。スカイパーフェクTV!(スカパー!)でサッカーを見るためには、ケーブルテレビとスカパー!を分配する配線をしなければならない。そんな複雑な配線に、録画機の配線が加わる。最初はβとVHSが混在していたが、ビデオカメラ用の8ミリが加わった。そんなことで8ミリとVHSが両方再生できるデッキなどというものも買い込んだが、先日古いテープが噛んで解体したばかりである。要するに、わが家のテレビまわりは、たこ足配線どころか、勝手に2国間で結ばれるFTA(自由貿易協定)の糸がこんがらがったWTO(世界貿易機関)にも似たスパゲティ状態なわけだ。