使われてはじめて安心する

勝力 でも冷静に考えると,この結果も当然あり得る話なんですよね。だって,大黒さんがメーカーにいた10年前とは,大分状況が違いますもの。

大黒 10年ひと昔ということで,もうそんな話は通用しないという訳ですが。

勝力 すごく簡単に言ってしまうと,「プロダクトアウトからマーケットインに転換した」で説明がつくと思います。プロダクトアウトの時代というか,メーカー側が主導でものを造り,売っていた時代は,モデルチェンジも少なく,良いものを造るのに時間が掛けられて,しかもそれなりに売れた。ユーザーが欲しているのが前提なわけで,造ることに集中できたということです。

木崎 造れば売れたは言いすぎかもしれませんが,高度成長期はメーカーにとってみればよい時代だったかもしれませんね。

勝力 ところが,バブルがはじけた1990年代以降は,「プロダクトアウトではものが売れない」,というのが一気に定説となり,「マーケティング」が重視された。良いものを造っても必ずしも売れるとは限らないのですから,技術者とはいえ「本当にこの開発やものづくりが会社のためになっているのか」と疑心暗鬼になり始める。そして,多くの人が手に取って使い出した時点で,はじめてホッとする。本来,良いものづくりに携わっているときほどやりがいを感じていたのに,自然と役立っているときにやりがいを感じるようになる。

木村 経営陣から見て,どちらのタイプの人間がより利益を稼ぎ出すのに役立っているのかというと,ものづくりに没頭している人間というよりは,ユーザーに買ってもらえることを重視する人間の方ではないでしょうか。

大黒 でもどうなんでしょう。最近ではイノベーションはマーケットインでは生まれないともいわれていますよね。マーケティングを綿密にすれば,そこそこ受け入れられる製品,80点の製品は生まれるかもしれません。ところが,100点どころか150点を出せるような大ヒット商品はマーケットインでは生まれず,むしろプロダクトアウトから生まれているといわれています。

木崎 だとすると,ものづくりに没頭するのが好きだという人間を,もっと育てていかなくてはならないでしょう。

大黒 もう一つ,品質の問題があります。製品が市場に出てからトラブルを起こす例が目立って一種の社会問題化していますが,品質を地道に向上させていく活動をより任せられるのは,どちらかというとものづくりに没頭する人間ではないか,と思いますね。

勝力 既にそのあたりに気付いている企業も多いかと思いますが,この先の競争力を高めるために重要なのは両タイプの人材のバランスではないでしょうか。どちらのタイプを多く抱えるかは企業の戦略に依存しますから。

専門職は給与に不安