承前

 16世紀まで「取るに足らない」、「貧しい、辺境の、遅れた」国であった英国が相転移をおこして、19世紀までに世界の覇権を獲得した。それは、これまで5回にわたって説明してきた通りだが、そのメカニズムは、

(1)鉄製大砲という「パラダイム破壊型イノベーション」から出発した武器・製鉄産業。
(2)海軍の創設から始まるスペインからの勝利と奴隷貿易の権益獲得。
(3)さらにオランダに勝利して制海権を掌握し、諸大陸に植民地を獲得。
(4)蒸気機関という「パラダイム破壊型イノベーション」の綿織物産業への応用。

 という四つのイノベーション・チェーンが互いにポジティブに絡み合うことで成立したものであった(図3)。

図3 「産業革命と英国の台頭」のイノベーション・ダイヤグラム

 そこで英国が持続的に得たきわめて高い付加価値は、(1) 武器、(2) 拉致されて奴隷にされたアフリカ人、(3) 砂糖(西インド諸島)、ついで綿花(北アメリカ南部)、(4) 蒸気機関で量産された綿織物、という4種類の「商品」が、広大な植民地を生産地かつ市場にしながら三大陸をサイクリックに循環する「三角貿易」で得られたものだった。