技術流出しやすいのは

 ここで考えてみたいのは,半導体は「サイエンス型」だから技術流出しやすく,一方で従来の自動車技術(機械技術)は「エンジニアリング型」だから技術流出しにくい,という「法則」のようなものがあるのではないかということである。

 例えば,日経ものづくりが発行した『日本,ものづくりの神髄』という本の中で三菱化学社長の小林善光氏(インタビューの抜粋)は,サイエンスに基づく研究は自社でやるよりもむしろアウトソースして,それを使った事業化を自社で進めるのが大切だとしたうえで,次のように語っている(p.136-137)。

 事業のネタとしても,あまりサイエンス化していないものの方がやりやすいのです。例えば結晶を研磨する場合,研磨剤は買えるけど,結晶をどう研磨するか,水を拭きつけながら何度で磨くかということは,ノウハウの塊です。こういうのは隠せる。ところが理論的に解明できる技術だと,米国帰りの中国人など優秀な人が見れば全部分かって,すぐにライバルが出てきてしまう。
 秘伝のたれとか職人技というのは,サイエンスになっていないから持っていけないんですな。しかし,だからといって日本がいつまでもそこにとどまっていいのかというと,それは違うかもしれない。次を考える必要がある。フレーム・ワークテクノロジーを革新して,日本が適正な利益をビジネスとして取れるような仕掛けを考えるべきだと思っています。

 この小林氏の話から考えられるのは,形式知として系統的に学習できるサイエンスは,アジア諸国にとってむしろキャッチアップしやすいということである。例えば,半導体材料の研究分野では,中国の躍進が著しいというブログを日経マイクロデバイス編集長の朝倉博史が書いている。

 同ブログでは,透明酸化物アモルファス半導体の研究で有名な東京工業大学教授の細野秀雄氏の談話を紹介している。細野氏は,物理ではPhysical Review Letters,化学ではJournal of the Amarican Chemical Society(JACS)といった権威のある論文誌があるが,「両誌とも論文数で日本は中国にとっくに抜かれている」という。その差ができた要因として,中国は研究者の絶対数が多いことと,研究環境に恵まれた米国に深く入り込んでいることの2点を挙げ,危機感をあらわにしている。

 もちろん,学生の理科系離れが問題視される中,日本もこうしたサイエンス分野の人材育成は非常に重要だが,筆者が一方で感じたのは,このブログのコメントでも書いたのだが,材料分野でもサイエンス型とエンジニアリング型の二種類があるのではないか,ということである。