「サイエンス型」と「エンジニアリング型」

 ここで,サイエンス型とはサイエンス(科学)の知見を利用したイノベーションの比率の高い産業,エンジニアリング型とは既存の技術を基にした「カイゼン」などの行為によるイノベーションの比率が高い産業を指す。

 サイエンス型とエンジニアリング型では,例えば製品開発のスタイルが異なってくる。サイエンス型の半導体産業では,「現在の技術の延長線上には解はないが,将来必要となる製品性能が提示され,それに向けて多岐にわたる科学的な検討と,技術的飛躍により開発が押し進められる」(p.114)。このため一企業にとどまることなく,業界全体でロードマップを作って,情報を共有しながら開発スピードを上げる。

 これに対してエンジニアリング型では,「解」はあらかじめ確定している。エンジニアリング型の自動車産業は,「自社の技術の引き出しから最適な技術を選んでパッケージ化するという作業スタイルをとる」(p.113)。このため,社内調整または系列の部品メーカーなどクローズドな世界で製品開発が進められる。

 自動車向け半導体の開発では,こうした自動車産業が持つエンジニアリング型の開発スタイルと半導体産業が持つサイエンス型の開発スタイルが混在することになる。竹内氏らは,「サイエンス型産業とエンジニアリング型産業のどちらに軸足を置くかで,車載半導体に対する科学観や技術観が異なってくる」と述べている(p.114)。

「コモディティー化の危機感が大きい」

 サイエンス型とエンジニアリング型の開発スタイルの違いに関連して,興味深かったのが,エンジニアリング型産業の自動車メーカーに「コモディティー化の危機感が大きい」,という指摘である。

 自動車産業にかかわる人たちは,コモディティー化してパソコンのように価格の叩きあいのような状況になるのを恐れている。それはそうだろう。一緒に日本を引っ張ってきた製造業の仲間が苦しんでいるのを間近で見ているからだ。

 とりわけ車載半導体の比率が高まるにつれ,価格破壊の元凶のような半導体(産業)に対する警戒感があるようだ。それに対抗しようとする一つの表れが,これまでのクローズドな開発スタイルを貫き通そうという傾向が強いことだとみる。「車載半導体においても,自動車メーカーが系列会社を巻き込んだ垂直統合型のビジネス展開を目指すのは,自動車がコモディティー製品になることに対する防御策のようにみえる」(p.111)。

 実際,自動車メーカーが車載半導体を開発する際に,真に信用しているのは電装品メーカーであって,半導体メーカーではないようだ。この論文の中でも,ある自動車メーカーで電装部品を開発する技術者の談話として,「やりたいことの7~8割は電装品メーカーと共有して計画を練る。半導体メーカーに伝える情報は,話がまとまった中の1~2割程度。システムの上流部分は我々のノウハウなので,技術課題に落とし込んだ上で半導体メーカーに伝えている」というコメントを紹介している(p.111)。