日本の自動車産業とエレクトロニクス産業はなにかと比較されてきた。同じところもあれば,違うところもある。いずれも高い技術力を誇り,製造業発展の牽引役である。一方で,このところ国際競争力という面では絶好調な自動車産業と,精彩を欠くエレクトロニクス産業という差が出てきてしまった。同じ日本の製造業でありながら,なぜこのような差が生まれてしまったのか。両者には何か構造的な違いがあるのだろうか---。

 これまで様々な観点から比較・検討されてきたが,相手の良さを勉強して自らの競争力を上げる参考にしようというややノンビリしたものであったように思う。相手の良さを知ったところで,自分とは事情が違うという思いがあった。それがこのところのカーエレクトロニクス化の進展によって事情が変わってきた。

 自動車産業とエレクトロニクス産業という「異質」のものをうまく結合させなければ成功はおぼつかないのである。そのためにも,両者は一体何が同じで,何が違うのかをはっきりさせたいところである。本稿ではそれを考える一つの糸口として,成長の原動力であるイノベーションのあり方が二つの産業でどう違うのかについて,筆者が最近読んだ論文や本を紹介しながら考えていきたい。

車載半導体の開発を阻むもの

 第一に紹介するのが,東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科の竹内寛爾氏,関根誠氏,藤村修三氏らの研究グループによる「車載半導体の開発に潜む弊害~自動車産業と半導体産業の考え方の違いが明らかに」という論文(日経エレクトロニクス誌2007年12月3日号,当サイトに転載)である。

 同論文の中で竹内氏らは,エレクトロニクス産業の中でも半導体産業にスポットを当てて,車載半導体分野における国際競争力を上げるには両者の緊密な融合が欠かせないとしたうえで,現状では「産業間を超えた協業体制が効果的に構築されていないようにみえる」と見る(p.106)。

 この理由として同論文では,「歩留まり」「コモディティー化への危機感」「信頼性」などに対する考え方の相違があると考察していくが,その中で筆者が特に興味深かったのが両者の間には「技術構造」の違いがあるという指摘である。すなわち,半導体産業は「サイエンス型」,自動車産業は「エンジニアリング型」であるという。