そのまた数年後に、研究所で同期だった友人がA社に転職した。そこで、OKI出身の技術者がファクスの開発・設計に従事しているのを目撃し、「ああ、そういうことだったのか」と納得したのだという。同じようなことが、研究所でもかつてあったと先輩から聞いた。某AV機器メーカーが本格的に半導体製造に乗り出す際に、研究所の半導体技術関連の研究室からごっそり人を引き抜いたことがあるらしい。まずは研究室長を勧誘し、その室長が「使える」室員をピックアップして一網打尽に移籍させたのだという。そのメーカーが半導体事業で成功したのは優秀なOKI社員のおかげ、というのが話のオチである。

やっぱり任され、捨てられて

 そんな脇の甘さというか大らかさというか、それも長年の荒波に揉まれ随分変わっただろうと思っていたら、現在もOKIの半導体部門で奮戦している友人からこんなメールが来た。これから「親」になるロームに関してなのだが、彼の周囲では「仕事で付き合っても、こちらからの情報は出て行くだけで先方からは何も出てこない」という企業イメージが流布されており、これがOKIの社員的にはあまり歓迎されていないらしい。

 実際にこんなことがあったのだという。ロームからの注文で、ある製品の製造を受託していた。当然、監査や認定ということで様々な情報が発注元に流れる。それを基に同社は技術を習得し、製造装置を自社開発して自社製造に切り替えてしまった。そのことで大きな収入源を失ったということが、担当者たちが悪印象を抱く要因になっているようだ。かつて何度も聞いたような話である。推測するに、20年前から社風はあまり変わっていないようだ。

 ただ、「自分達はほかとはちがうのかも」という自覚は芽生え始めているらしい。友人によれば、某事業の譲渡を受け、引っ越してきた外資系半導体メーカー出身の技術部隊がいるのだが、彼らは明らかにOKIの社員とは考え方が違うのだという。一貫して「ビジネス上良いと判断されることについては社内ルールなどクソ食らえ」という態度で、それはOKI社内にいる人間にとっては信じられないことだとか。その「外人部隊」の方たちも違いについて気付いているようで、「なぜOKIでは、何かを変えようとすることがこれほど大変なのか。危機感はないし、外の世界も知らないし」とこぼしているらしい。

平均年収は40.4歳で677万円

 こうして挙げていくと、「ああそれそれ、それこそが敗因」と思わなくもない。で、「どう?」と別のメーカーに勤務する知人に意見を聞いてみたら「まあ、そうかもしれんけど、企業文化のゆるさとか、程度の差はあっても多くの老舗エレクトロニクス・メーカーが抱える共通の問題なんじゃない?」などとおっしゃる。「規模の問題にしても、OKI固有の問題ではないでしょ?韓国の半導体メーカーなんて、最初はOKIなんかよりぜんぜん小さな規模だったのに、次々と日本メーカーを抜いていった。規模が小さいなら小さいなりに、ファブレスで生きるという方法だってあるし」と。