中鉢 良治 氏
写真:栗原 克己

 生産の自動化を進めていった果てに,最後に何が残るのか。こういう発想が,僕の根底にあるんです。ソニーがものづくりの会社であり続けるとすれば,これは非常に重い課題です。ものづくりが極めて工業化するに従って,人と人の間が少し疎遠になり,それが高じて,かえって人間関係がうっとうしくなってしまった。個人主義で孤独な感じです。でも,これでは人は癒やされないし,能力を発揮できない。だから,心の回復活動をしなきゃいけないんです。

 社長に就任してから3年ほどですが,たくさんの現場をひたすら見て,ひたすら会話しました。当然,現場から報告書は僕のところに上がってきます。しかし,報告書だけでは分からないことがある。報告書にウソは書いていないですよ。しかし,すべてが書いてあるわけでもない。自分の目で確かめると,報告書とは違う種類の情報が入ってきます。まず,自分の目で,その現場の空気を感じたかったのです。人が何を考えているか,現場で物がどう動いているのか,自分が提示している方針がどれくらい浸透しているか,ということを感じたかった。