日本は来世紀も科学技術立国
ソニー 社長 中鉢 良治 氏

写真:栗原 克己
生産の自動化を進めていった果てに,最後に何が残るのか。こういう発想が,僕の根底にあるんです。ソニーがものづくりの会社であり続けるとすれば,これは非常に重い課題です。ものづくりが極めて工業化するに従って,人と人の間が少し疎遠になり,それが高じて,かえって人間関係がうっとうしくなってしまった。個人主義で孤独な感じです。でも,これでは人は癒やされないし,能力を発揮できない。だから,心の回復活動をしなきゃいけないんです。
社長に就任してから3年ほどですが,たくさんの現場をひたすら見て,ひたすら会話しました。当然,現場から報告書は僕のところに上がってきます。しかし,報告書だけでは分からないことがある。報告書にウソは書いていないですよ。しかし,すべてが書いてあるわけでもない。自分の目で確かめると,報告書とは違う種類の情報が入ってきます。まず,自分の目で,その現場の空気を感じたかったのです。人が何を考えているか,現場で物がどう動いているのか,自分が提示している方針がどれくらい浸透しているか,ということを感じたかった。
みんな,かかわりを持ちたがっている。別に,社長とでなくてもいいんですよ,たぶん。人とのかかわりを大事にし始めたとき,どれほど勇気を得られることか。尊厳ある,胸を張れるものづくりをやろうということです。セル生産もその一例です。単に「1時間当たり何個」ということでは測れないこともある。それを支えるのは,やはり人間とのきずなとか,「自分が社会に貢献しているんだ」という自負心とか,いろいろなものです。
今は,品質第一,クオリティー・ファーストと社内で強調しています。クオリティー・ファーストというのは,コストダウンが多少遅れても,デリバリーが10日遅れてもいいから,お客さんに満足してもらえるだけの圧倒的なクオリティーをまず実現しろということです。だから,1にクオリティー,2にクオリティーだと。3もクオリティー,4もクオリティー。5番目か6番目ぐらいに,コストとかデリバリーを入れておけと。最重要の基準として明確にクオリティーを掲げないと,人の考え方や企業文化は変わりません。人事評価制度もこの考えに基づいて変更しています。
企業の成長で最も大切なのは開発です。これが一番大切。だから,成長戦略というのは開発戦略と一体です。どんな技術の種を仕込んでいるかが今後の成長の鍵を握る。ところが,今の世の中では成長モデルとしてM&A(企業の合併・買収)や新しいビジネスモデルがもてはやされています。これは,ちょっと違いますよ。私が日ごろから繰り返し話しているのは,「量が質をつくるのではなく,質が量をつくるんだ」ということです。ここは間違えないでください。クオリティーが最初にあって,後から量が付いてくるんです。
日本が世界経済の中で今後も存在感を持っていくには,科学技術に基づかない限りはダメです。生きていけませんよ。石油があるわけじゃないですし。じゃあ,ものすごい内需で市場が米国並みにあるかというと,これも限られている。では,超低コストで物を造ってやっていけるかというと,それも難しい。どう考えても,今も来世紀も科学技術立国しかない。
その中にあって,日本のメーカーとしてのソニーは同じ姿勢ですよ。今までの60年も,これからの60年も,やはり技術立社です。ソニーらしい技術のないものづくりはあり得ない。これが,日本のメーカーとして生きる最も基本的な条件だと。それを愚直に守っていかねばならないと,私は思います。
プロフィール
中鉢 良治(ちゅうばち・りょうじ) 1947年宮城県生まれ。東北大学大学院工学研究科博士課程を修了し,1977年にソニー入社。1989年に米Dothan工場(アラバマ州)に赴任,帰国した1992年,記録メディア事業本部ビデオテープ事業部長に就任。1999年執行役員。その後,副社長などを経て2005年6月に取締役代表執行役社長に就任。
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