戴氏はまた,こんなことも言う。「私たちはそのことに気づいて,本当に何日も激論を交わした。その結論は『目の色が青くても黒くても,人間の欲望は同じだ』ということだった。誰でもクルマには乗りたいし,大きな家に住みたい,旅行もしたい。それを禁止することなどできないということだ」。ただ,クルマを持つ自由はあっても,どんなクルマを持つべきかについては国家が制限を加えることはできるはずだという。

 最後に中国の将来について戴氏はこう語る。「我々は後発であることを生かして,先進国の新しい技術や仕組みを最大限に取り入れて利用する。これから作る住宅は,省エネを最優先して設計する。住宅だけでなく,都市の形についても米国型,欧州型,日本型のどれが一番,中国の環境政策に向いているかを研究している」。ですから日本の皆さんの省エネ技術の援助に大変期待しています,というのが戴氏の講演を締めくくる言葉だった。

環境先進国の日本にできること

 中国は経済成長を重視して環境対策をおざなりにしていると,世界からさんざん批判を浴びているが,中国の人たちがそのことを承知していないわけがない。むしろ,これからの人口増と経済発展により,環境問題がもっと深刻化することをよく理解している。分かってはいても,何とか今の貧困から脱出したい,少しでも豊かになりたいという気持ちの方が,この人たちには強いのだ。

 日本も50年ほど前には,粗悪品の輸出だとか技術のただ乗りだとか,今の中国と同じような批判を世界から受けていた時期がある。やはりみんな貧しくて,少しでも豊かになろうと必死だったころだ。幸い,日本の成長期には温暖化ガス排出削減義務などなく,好きなだけ石油を使うことができた。その結果,今でこそ世界の環境優等生のようなことを言っているが,一時期の日本は深刻な大気汚染と水質汚染で,世界最悪の公害病を有する国でもあった。

 そんなことはすっかり忘れて,筆者は日曜日のホームセンターで電球型蛍光灯の品定めをしている。本当に先進国はラッキーである。中国やインドやアフリカ諸国は,これからの人口増を満足にエネルギーを使えない状況で乗り切っていかなくてはならない。下手をすると,エネルギー不足よりも食料不足や水不足の方が先に来て,大混乱が起きる可能性もある。これらの国々では,環境問題を貧困や人口問題と切り離しては考えられない。

 私たちが電球型蛍光灯で節約できる電力は,決して小さくはないがさほど大きくもない。戴氏は「先進国がいくら頑張っても,中国,インド,ブラジルで温暖化対策が進まなければ,すぐに相殺されてしまう」と言っていたが,まったくその通りである。電球型蛍光灯の普及も悪くはないが,優先順位的には途上国への援助の方がずっと重要だ。

 洞爺湖サミットで,もし日本政府が世界に何かを示したいのなら,単に省エネ技術の援助などという小さな話ではなく,広範な経済援助や人的援助で世界の南北問題を解決するという姿勢を,まず先に示してもらいたいものだと思う。