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コラム

金融立国なんてあり得ません

森精機製作所 社長 森 雅彦 氏

2008/05/21 17:00
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森 雅彦 氏
写真:糠野 伸

 5年から10年くらい前,「工作機械なんか日本ではやっていけないからやめてしまえ」という論調の時期がありました。著名な大学の先生の本にも,例えば工作機械に代表される低レベルの擦り合わせ産業は,韓国や台湾にそのうち取って代わられ,中国も台頭してくるので早いうちに業種転換すべきだ,なんて書いてありました。新聞にも,輸出型の重厚長大が復活してきているが,日本はソフトウエアやサービス産業などへの転換に遅れを取っている,と書かれています。

 私は工作機械しかできないので悔しい思いをしていたのですが,日本と世界を回った実感では,競争は厳しいですが少なくとも今後20〜30年は日本で工作機械を造った方が有利です。どう考えてもそうなります。

 日本は高校や高等専門学校卒のレベルをはじめとして教育水準が高く,産業集積も進んでいるので,工作機械を造るための強固な基盤が整っている。こんな環境はなかなかない。韓国や台湾ではいろいろな材料を外国から輸入する必要があるし,中国は産業基盤が成熟していないので,それ以前の課題も多い。中国は競争相手というよりも,工作機械のお客さんという位置付けです。

工作機械には長期的視点が必須

 工作機械は平均して15年くらい使われます。例えば今日機械を納入すると,うちにとって今後の15年間は責任を伴った時間になります。少なくともその期間は顧客サービスを続けないと,次の注文が来ない。だから資本の息も長い。入ってきたお金を全部使うのはダメです。お金のうち何%かは,15年後までの顧客サービスのために残しておく必要があります。だから,あまりにお金を速く回す米国や英国,フランスでは工作機械産業が衰退しました。

 1970年代はフランスが世界シェアのトップで,1980年代前半は英国,1980年代後半は米国が一番だったわけです。ところが,1990年以降は日本とドイツが突出しています。お金の回り方が世界中で同じである必要もないし,ある意味それが文化と言えます。その意味では,工作機械にとって製造国の文化は非常に重要です。日本の工作機械の強さは,長期的な視点で経営できるという文化が支えているのです。

――金融業やサービス産業を主役に推す脱工業化論は相変わらず盛んですが。

 例えば,うちの工作機械はイタリアでたくさん売れています。この話をすると,日本の製造業の関係者から「え,何でイタリアでそんなに売れるんですか」という反応が来ます。「フランスで売れてます」と言っても同じ。フランスにはAirbusやPeugeotがあるし,鉄工所も多い。イタリアだって多くの工場があって,さまざまな工業製品を造っています。ある程度の大きさの国になると,ものを造っていかないと国民を養えないし,生活も維持できません。

 それなのに,根本的に間違った幻想がある。「自国の製造業がなくなっても誰かが造ったものを買えばいい」「金融業が柱になって日本経済を支える」などです。金融だけで食っていけるなんてことを真剣に信じている人がいます。人間が物質的な存在である限り,そんなことはあり得ませんよ。

 米国や英国ではそういう論調で製造業が衰退しました。特に工作機械産業への影響は大きかった。「その代わりに英国は金融業で復活した。だから,日本も英国型を目指すべき」と主張する人がいます。これは東京の一部,つまり地域限定なら正しいかもしれません。しかし,日本全体で見たらどんな悪影響があるか想像もできません。

 英国でも,地方は相当に病んでいます。貧しい生活をしている人がいるし,(その人たちを診る)病院だって大きな問題を抱えている。街がきれいで,歴史があって,世界中で英語が通じるので外からは良く見えますが,個人の生活を見ると殺伐たるものを感じるときがあります。具体的には,英国の顧客企業のいくつかが倒産したときの状況ですね。

 英国型はいい面もあるでしょうが,いい面ばかりじゃない。では,今後のものづくりをどうすればいいのか。こうした議論がもっと必要だと思います。

プロフィール
森 雅彦(もり・まさひこ)
 1985年伊藤忠商事に入社,大阪本社機械部門産業機械本部の繊維機械第1部に勤務。1993年4月森精機製作所に入社,企画管理室に配属。1994年同社取締役。常務取締役,専務取締役を経て,1999年6月に取締役社長に就任。工学博士(東京大学)。

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