国内生産の二つ目の役割は,海外事業体の支援です。

 我々はトヨタウェイというものを2001年にまとめました。これは,海外での生産が増えるとともに,従業員も随分増えてきたということから,トヨタの信念というか経営哲学というものを明文化して,トヨタのものづくりの考え方を皆で共有化していくためのものです。

 トヨタウェイそのものは,“知恵と改善”と“人間性尊重”というのが2本の大きな柱となっています(図1)。それに加えて5つのキーワード,“挑戦”“改善”“現地現物”“尊敬,尊重”“チームワーク”でまとめられており,グローバルトヨタ社員の行動指針となっています。考え方を世界の全事業体で共有化して,グローバルトヨタが同じ理念や価値観のもとで仕事をしていく,ということです。

 これらの考えを,どうやって具体的に推進するかということですが,生産の方で言えば,我々は2003年にグローバル生産推進センター(GPC)というものを造りました。GPCを設立した目的は,グローバルにトヨタウェイを共有して,トヨタの体質強化,効率化を実現すると共に,海外事業体を自立化させるためであり,技能についても,トヨタウェイに基づいたベストな方法で移転しています。  それからもう一つのGPCの役割は,のちほどにも紹介しますがグローバル号試です。具体的には製造準備,新製品切り替えの製造準備改革,の二つを主な活動として取り組んでいます。

 GPCの主要な活動の一つであるベスト技能研修においては,これまでトヨタのいろいろな現場で積み重ねて改善されてきた暗黙知を,ベストなものづくりの根本として置きます(図2)。国内の全工場からベストプラクティスを集めて,それを誰でも容易に理解できて,使えるようにするのです。アニメーションや動画を使って,勘やコツを形式知化します。海外展開するのですから,言葉をなるべく使わないようにして,そして技能を伝えるのですからビジュアルなマニュアルとします。さらに,ステップを踏んで技能レベルが習得できるような仕組みを作ってきました。

 研修対象としては,国内,海外工場における製造などの管理・監督者から新人まで,すべてのレベルを網羅しています。また。さきほど言ったように研修のステップとして,基本知識,基本技能訓練,そして要素作業訓練,標準作業訓練,と段階を踏んで進めるように,カリキュラムを構築してきました。

 海外事業体からはトレーナーに来てもらって,研修を受けてもらいます。その人達が,先程も紹介しましたビジュアルマニュアルといったようなツールと共に研修手法をセットで海外に持ち帰るということになります。

 この育成方法は,想像以上に大きな効果があってびっくりしました。同じ技能レベルに到達させるのに,以前の約半分の訓練期間しか掛かりませんでした。また,研修が標準化されているので,教える側も生産性が随分上がりました。一人の先生で従来の6~10倍の生徒を教えられる,ということで極めて高い効果がありました。これまでに,海外で3000人以上,国内で8000人以上が研修を受けています。

 GPC方式の訓練の有効性が十分確認されたので,どんどん日本に来て訓練してもらおうと考えてはいますが,かなり費用がかかります。ということで,現在は米国,欧州,アジアの3カ所で日本のGPCのブランチを作っています。同じスペックで設備を作って,米国の従業員なら米国のGPCで訓練してもらう,というように,世界的な規模でこの訓練システムを展開しています。さきほど海外での生産量が急速に伸びていて,量的にも質的にもレベルを向上させていくのが課題と言いましたが,これに備えてこういう取り組みを実施しています。