有名企業で人事担当をしている知人のO氏と飲んでいたら「職場でアイデアが枯渇しているので発想力が上がるいい方法はないか」と聞かれた。

 「そりゃ簡単だ。アイデアが出なくなる原因は考える時間がないだけなんだよ。仕事でぎゅうぎゅう詰めにスケジュール管理して、社員たちの考える時間を会社が削っているのが原因さ。みな優秀だから、考える時間を与えればわんさかアイデアが出るようになるって」と本音で言ってみたのだが、管理社会となった今ではなかなかそうはいかないらしい。「とてもそんな余裕はないんだよ。業務時間内は山積み業務処理に精一杯。アイデア出しの時間は仕事が一段落した夜か業務の合間にちょっと考えて、思い付きをメモる程度なんだ。その中でなんとか短時間に効率よくヒットにつながるアイデアを社員全員が出せるようにしなければならないという追い込まれた状態なんだ」と苦笑する。

 「それなら特効薬としてクリエイティブ・シンキングって発想法があるぜ」と言うなり、やつの目つきが青く光り「いますぐ、それを教えろ」と迫られた。「まぁ待てよ、こんなガード下の屋台で授業かよ、勘弁してくれよ」と言ってみたが、やつの目は依然、青く光ったままだ。しょうがない。酒がまずくなりそうだけど始めるか・・・。

 「えーと、まずクリエイティブ・シンキングっていうのは直訳すると『創造的思考技術』で、組織の発想力を合理的に時間内にある一定量出させるアイデア製造ノウハウなんだな。それに対してこれまでの『クリティカル・シンキング』はアイデアをまとめあげるノウハウ。もうひとつの『ロジカル・シンキング』はアイデアを金儲けにつながるように企業利益だの消費者ニーズだのを論理的にまとめあげるノウハウのことだ。つまりクリエイティブ・シンキングはモノを考える最初の部分で、いかにしたらアイデアを思いつくかという着想のノウハウに当たるわけさ。後にも先にも閃きがなければアイデアに論理付けすることも、まとめることもできない。だから、まずは考え出すことにエネルギーを集中する組織の仕組みを作り出すのが先決だと、やっと日本企業も悟りを開いたわけ、お分かり?」

 そんな講釈をたれていたが、気付くとその間にやつは酎ハイをおかわり3 杯目に入っていた。しかも割り勘である。その挙句に、「いやぁ、それはそうなんだろうけどさぁ、とにかくみんなアイデアが枯渇しちゃってるわけよ。前は出たが今は出なくなっちゃった、とか言ってるし。なんとかならんか」などと涼しい顔で言う。こいつ俺の話は何にも聞いちゃいねぇ。ええい、くやしいから実名を出してしまおう。O氏とは小滝のことだ。